1.臨床開発におけるプロジェクトリーダーとスタディマネージャーの違いは?
こんにちは。この記事では、CRAの今後のキャリアパスについて解説します。
さて、CRAとしてキャリアを歩まれている皆さんの中には、「今後のキャリアどうしようかなぁ?」と悩んでいる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
臨床開発のマネジメント(例:Study Manager)、さらには医薬品開発全体のマネジメント(プロジェクトマネージャー)、人のマネジメント、他部署での業務(例:薬事担当、MSL、安全性担当、治験薬担当)などなど、CRAから歩めるキャリアパスは多岐に渡るので、なかなか決めづらいですよね。
そのような多岐に渡るキャリアパスの中でも、この記事では「医薬品開発全体、および臨床開発におけるプロジェクトのマネジメント」に焦点を当てたいと思います。
一言で「医薬品開発/臨床開発のプロジェクトのマネジメント」と言っても、その指し示す範囲や意味は、文脈や発言した人によって違いがあります。
例えば、臨床開発において「Project Lead」と言ったとき、それはモニタリングのリーダーを指しているのでしょうか? もしくは1つの臨床試験のリーダーを指しているのでしょうか? はたまた1つの薬剤の臨床開発全体の(=複数試験の横断的な)リーダーを指しているのでしょうか?
転職活動でいろいろな求人を見ていると、「Project Lead」、「Study Manager」、「Clinical Trial Manager」等、似たような職種/役割名が出ているので、同じなのか、違うのかがよくわからないといったことが起こっていると思います。そういった職種を、整理して理解できるように解説できればと考えています。
(注釈)本記事は、筆者の臨床開発経験と、公知の情報(書籍やWebページ)から得た情報を中心として、一部有識者からヒアリングした情報を追加した内容になります。したがって、各社での職種の名称や分業体制とは必ずしも一致しない点はご容赦頂けますと幸いです。
また、今回は製薬会社やバイオベンチャーの視点で説明しています。CROにそのまま適用できるものではないこともご理解ください。
2.(非臨床以降の)医薬品開発、および臨床開発のマネジメントの全体感を理解する
まずは、「医薬品開発全体、および臨床開発のマネジメント」を行っている職種を以下の図に整理しました。
(縦軸は製品軸で、横軸は時間軸です。また、最下段の矢羽根は「適応aでの承認取得を目指す第Ⅲ相臨床試験」のフロー詳細になります。)
もちろん各社でより細かい職務分担があるでしょうし、この図には記載されていない職務もあるかと思いますが、大まかには5つに分類できるのではないかと考えております。
■(非臨床以降の)医薬品開発全体
(1)Project Manager
■臨床開発
(2)Project Lead
(3)Clinical Science
(4)Study Manager
(5)Operation Lead
各職種が担当している範囲は、薄い色掛けの枠で囲んでおります。
職種ごとにマネジメント範囲が異なることがお分かり頂けたでしょうか?
それでは次に、各職種が具体的にどのような業務をしているかについて解説いたします。
3.各職種が何を担当しているか理解する
上記図の上から順に沿って解説していきます。
(1)Project Manager
対象範囲は、非臨床試験後期~承認取得までになります。試験軸ではなく、薬剤軸で担当が決まります。非臨床試験で良好な結果が得られそうな見込みが立つと、業務を開始します。他部署との協議等を通じて、TPPを作成します。また、TPPに基づき、開発戦略(どんな疾患でどのような適応を狙うかの検討)の立案をリードします。
また、TPP作成や開発戦略の立案・実行をするにあたり、製剤開発/CMC、非臨床、臨床開発、薬事など担当薬剤の開発に関わるファンクション全体をマネジメントします。言い換えれば、担当薬剤の開発におけるCTDに必要なデータ、すなわち品質(開発品の製造工程データ、ロット分析、安定性等)/非臨床/臨床各パートにおいて、承認取得に耐えうるデータを収集できるよう、医薬品開発全体を指揮するという役割になります。
加えて、開発以外では、上市後に向けマーケティング部門やPMS部門とのやり取りも発生します。
他部署との連携については詳細を挙げるとキリがないので、いくつか例を示します。
・研究部門(非臨床担当者含む)との連携(作用機序の深掘り、ADMEの改善)
・製剤開発/製造部門との連携(個々の臨床試験開始に向けた安定供給の可否や目途)
・マーケティング部門との連携(市場導入戦略の策定)
・薬事部門との連携(薬事戦略の策定)
・知財部門との連携(特許戦略の策定)
なお、開発戦略立案時には、Medical DoctorやProject Lead、社外KOLの意見も参照します。
*なお、以下の呼称で呼ばれることもあります
医薬品開発プロジェクトマネージャー、PM、プロジェクトリーダー(下記2と表現が同じなので、役割範囲で違いを認識する必要あり)
(2)Project Lead
対象範囲は、臨床開発~承認取得になります。試験軸ではなく、薬剤軸で担当が決まります。Project Managerの下で開発戦略の立案支援や、開発戦略に基づいた臨床開発計画書 (Clinical Development Plan (CDP))の策定を行います。そのためにも、Key Opinion Leader (KOL)とのアドバイザー契約やヒアリングを通じて、今後の開発戦略に必要な情報をインプットします。また、当局との治験相談も担当します。各種制度への適応可否・期限(例:先駆け申請、条件付早期承認、希少疾病用医薬品認定)について、当局との確認・交渉を通じて、担当薬剤の早期承認取得を目指します。加えて、複数試験を横断的にマネジメントしていることから、担当薬剤にイベント(例:上市、開発中止)が発生した際は、各医療機関への伝達内容や手段をとりまとめます。
*なお、以下の呼称で呼ばれることもあります
プロジェクトリーダー、プログラムリーダー
(3)Clinical Science
対象範囲は、臨床開発~承認取得になります。Project Leadの下でCDPの策定、および個々の試験のプランニングを行います。そして、主にScienceの観点から個々の臨床試験をマネジメントし、担当試験の仮説を検証しうるデータを創出することを目指します。治験実施計画書の策定・改訂、治験総括報告書(Clinical Study Report (CSR))作成を見据えたデータの収集・管理方法の検討、担当試験に登録された被験者の安全性面の確認(例:あまりに有害事象が多く発生した場合には、有害事象の管理ガイドラインを改定する必要があります。)、Common Technical Document (CTD)の臨床パートの作成などを担当します。これらの業務を行うために、安全性担当や統計担当、Data Management担当、Medical Writing担当などとも協議します。加えて、より現場に則した治験実施計画書を作成するため、KOLへのヒアリングも行っています。また、CRAが立ち上げの試験に参画した際や、治験実施計画書の改訂があった際に、治験実施計画書の内容に疑義があれば担当者に問い合わせるかと思います。その疑義がOperationの内容であれば後述のStudy Managerが回答しますが、Scienceの内容であればClinical Scienceが回答します。
*なお、以下の呼称で呼ばれることもあります
臨床企画、clinical scientist
(4)Study Manager
担当範囲は、臨床開発になります。主にOperationの観点から個々の臨床試験をマネジメントし、担当試験の仮説を検証しうるデータを創出することを目指します。治験届の提出、候補施設のリストアップ、治験実施計画書の作成・改訂等の補助(Operationの観点からの改善案や各施設のPIからのフィードバック共有等)、同意説明文書の作成・改訂、治験使用薬の管理、Vendorの選定・Oversight、検体の集荷・測定方法の検討、各種手順書の作成、予算の管理・獲得などを担当します。これらの業務を行うために、安全性担当や治験使用薬担当、補償担当などとも協議します。また、国内の症例登録に責任を負いますので、事前に定められた症例登録期間内に登録満了できるよう、さまざまな策を講じ、Operation LeadやCRAに指示を出します。加えて、主に臨床試験の立ち上げ期には、各医療機関固有の文書(例:医療機関版同意説明文書、医療機関固有の提出書類)をReviewします。
*なお、以下の呼称で呼ばれることもあります
Study Leader、Clinical Trial Manager、Clinical Trial Leader
(5)Operation Lead
担当試験は、単一の臨床試験になります。単一の臨床試験の中でも、関わるのは対医療機関との仕事が発生するフェーズになります。Study ManagerとCRAの間に入り、主にCRAのマネジメントを行います。具体的には、Study Managerからの指示をCRAへ展開、CRAのスケジュール管理(例:各医療機関の立ち上げスケジュールの見える化、Database Lockの際のPI署名の予定日管理)、IssueやSAE等の発生状況管理、EDCへのデータ入力やクエリ解消状況管理、モニタリングレポートのReview・承認、CRAからの相談事解決などを担当します。また、Operation LeadやCRAでは意思決定できない場合、Study Managerへエスカレーションし、Study Managerの判断を仰ぎます。
*なお、以下の呼称で呼ばれることもあります
オペレーションリーダー
4.まとめ
この記事を通じて、「医薬品開発全体、および臨床開発のマネジメント」を行っている職種について、ご理解頂けたでしょうか? 一言に「医薬品開発全体、および臨床開発のマネジメント」と言っても、対象範囲や担当業務に大きな違いがあることがご理解頂けていれば幸いです。
また、臨床試験1本を実施するだけでも、非常に多くの担当者が密接な連携を取る必要があるとご理解頂けたのではないかと思います。
なお、冒頭でも触れましたが、実際には製薬会社ごとに違いがあります。
・職種名は一緒だが、役割範囲は違う
・職種名は違うが、役割範囲は一緒
等です。
したがって、求人票を見る際は、職種名にとらわれず、そのミッションや業務内容で判断するようにしてください。
次回は、各職種がどのように連携しながら、業務を遂行しているかを解説したいと思います。Study ManagerとOperation Leadがどのように連携しているかはイメージしやすいと思いますが、Study ManagerとClinical Scienceの連携や、Project LeadとClinical Scienceの連携はイメージしにくいのではないかと思います。普段ご自身が行っている業務との繋がりをより深く理解できるとともに、今後のキャリアパス検討にも活かせると思います。
お楽しみに!
■■■ 執筆者 : なーとし ■■■
大学院卒業後、CROに入社し、CRA業務に従事。その後、転職や社内キャリアアップを通じて、臨床開発プロジェクトのリーダーに従事。左記経験に加え、臨床開発業務効率化や会社の事業戦略立案等にも参画した経験を有する。また、業界活動への参画経験を有し、製薬会社やCROへの理解も深い。加えて、社外活動としてコーチングに取り組んでおり、受講者は累計80名を超える。
*MCPのキャリア支援者として、求職者のコーチングなども行っています