昨今の臨床開発モニター(CRA; Clinical Research Associate、以下「CRA」)の採用において、中途未経験者の採用が積極的に行われています。主な募集対象者は、看護師、臨床検査技師、薬剤師などの医療資格保持者、MR経験者、治験コーディネーター(CRC; Clinical Research Coordinator)経験者などです。
弊社inspire株式会社においても、未経験の方のCRAへの転職を数多く支援してきました。そのような中で、求職者様とお話をさせていただくと、以下のような疑問の声を良く伺います。
- 転職にあたりどのような準備をしたら良いのだろう?
- CRA職に就いた後、これまでの経験がどのように生きるのだろう?
- 経験したことのない業界だけど、やっていけるのかな?
それらの声にお応えするべく、弊社がサポートをさせていただいて、臨床検査技師から内資大手CROのCRAへご転職をされたFさんに、転職期間、入社後の実情を伺いました。
インタビュイー:Fさん 内資大手CRO CRA。大学卒業後、臨床検査技師免許を取得。病院に入職し、1年5カ月ほど臨床検査技師業務に従事する。当該期間に自院が実施していた治験に携わったことで、新薬開発とCRA職に興味を持ち、転職。内資大手CROに入社し、現在入社1年目でCRAとして医療機関を担当する。 |
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インタビュアー:峰尾 竜徳 inspire株式会社 事業推進部。大学院卒業後、内資大手CRO に入社し、臨床開発部に配属。CRAとして、中枢神経領域のプロジェクトに立ち上げ~終了まで携わる。その後、大手人材情報サービス会社に転職し、医学生向け web サービスの運営(コンテンツ企画 集客等)を経験する。2022年4月よりinspire 株式会社に入社。Medical Career Platformの立ち上げに関わり、現在は運営を担う。 |
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治験に関わった経験がきっかけに
峰尾:本日はお時間いただき誠にありがとうございます。
Fさん:よろしくお願い致します。
峰尾:本日は、臨床検査技師に従事されていた頃から、順を追ってお話を伺わせていただきたいと思っています。まずは、転職を決意された理由を教えてください。
Fさん:一つ目の理由は、検査科で行うことは検査の結果を返すのみで、患者様への貢献をあまり感じられなかったためです。特に私の病院では、異常な値が出た場合でも、医師に伝えるのみで、なぜその数値が出たのかを考える機会や医師とのディスカッションも特にありませんでした。検査科内での症例検討会などもなく、患者様への貢献という点について、物足りなく感じていました。
また、二つ目の理由としては、研修や勉強会などがほとんどなく、属人的な指導だった点です。ある先輩に聞いて行ったことについて別の先輩から怒られる、なんてこともありました。これでは患者様のために自身がスキルアップする、というのも難しいと考えたのです。
峰尾:なるほど。たしかにそのような状況では、患者様への貢献は感じづらいですね。では、治験業界やCRAという職種を志望されるようになったのはどのようなことがきっかけだったのですか?
Fさん:以前に自院で実施していた治験に携わったことを思い出したのです。今はない治療方法を世に送り出すことの一端を担うことができることは、大きな医療貢献につながると感じました。中でもCRAという職種は、直接患者様と触れ合うことはないものの、非常に科学的なプロセスを踏むこと、医師ともさまざまな議論の機会があることなど、魅力的に感じる点が多々あり志望するようになりました。
峰尾:ありがとうございます。志望動機にも、今お話いただいたことを書かれていますね。CRAでの面接では「なぜCRCでなくてCRAを志望するのか?」というのは必ず聞かれる質問ですが、しっかりと頷ける理由になっていますね。
Fさん:はい。加えて、CROにはフレックス制度や在宅制度を取り入れている企業が多いというのも魅力的で、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができると思って志望したところもあります。私は朝が苦手なので(笑)。
峰尾:なるほど(笑)。たしかに、それもCROの魅力の一つですね。
自分の考えを書き出す、人に聞いてもらう
峰尾:弊社がFさんとお会いしたのは、職務経歴を登録しておくと企業や転職エージェントから連絡を貰える転職支援サービスでしたね。そのサービスを通して最初に面談したのは弊社だったのでしょうか?
Fさん:いえ、最初は外資大手CROの人事の方から連絡をいただき面談をしました。そこでCRAの職務内容を簡単に教えてもらったのですが、なかなか理解できなくて……。この業界って、CRO、CRA、GCPなどアルファベット三文字の単語がすごく多いじゃないですか。話を聞いているうちに、人事の方が何について話をしているのかが分からなくなってしまいました。結果としてその会社は見送りになってしまったのですが、それはCRAの業務内容がふんわりとした理解だったからだと思います。
その後に御社(inspire)からご連絡をいただき、面談をしました。その面談の中で、改めて医薬品開発の流れといった基礎の基礎から、詳しいCRAの業務内容まで教えてもらってやっと理解ができたと思います。CRA職種説明資料もいただいて、その資料にあった用語の一覧が理解の助けになりました。
峰尾:それは非常に良かったです。かなり量のある資料で、求職者様の中にはめんどくさくなって辞めちゃう方もいらっしゃるのですが……。
業務内容をしっかり理解することの他、準備としてどのようなことを行いましたか?
Fさん:まずは志望動機の言語化をしました。先ほど、治験業界やCRAを志望するようになった経緯を話しましたが、最初はここまで話せませんでした。まずは、自分の思いを文章に書き出し、それを御社のコンサルタントに何度も添削いただくことで、考えを整理しました。
峰尾:そうですね。面接の回答を言語化するときも、一回文章にしてみるというのは非常に重要ですね。
Fさん:はい。その面接対策も結構大変でした。何を話すのか考えるという点では、いただいた想定質問集の回答作りをするということをしました。話し方という点では、私の場合、結論から話すといった話す順序であったり、相槌などのちょっとした返答の仕方であったりが、慣れていなくて。模擬面接を何度も実施いただいて、たくさんフィードバックを受けました。「そのような話し方だと、子供っぽいですよ」なんて、厳しい指摘も受けた記憶があります。御社のサポートは少しトレーニングのような雰囲気がありますよね(笑)。
峰尾:そうかもしれません(笑)。ちなみに、想定質問は40問くらいあったと思いますが、嫌になりませんでしたか?
Fさん:うーん……嫌になりましたね(笑)。でも、これから面接を受けようとされる方は、100%やった方が良いと思います。成功経験や失敗経験といったCRAへの転職に関わらず聞かれるような質問だろうと、書類などの提出期限の順守率とその順守率を高めるためにやった工夫といったCRAならではの質問などは、面接本番で聞かれてすぐに答えられるような質問じゃないですよね。あらかじめ、しっかり言語化しておかないと面接官にちゃんと伝わるように話せないと思います。
峰尾:そうですね。内定をいただいたCROからは「CRAに対する挑戦意欲をしっかり面接で聞くことができました」と評価されていますね。
Fさん:はい。面接の準備段階でしっかりと言語化ができていたからこそ、このコメントをいただけたのだと思います。それに、何て答えれば良いか分からないみたいな質問は面接で出てこなかったですね。基本的に想定質問集の範囲内だったと思います。
今思えば、業務内容の理解から面接対策まで、私の独力だけでは絶対無理だったと思います。大半の時間や労力を臨床検査技師の仕事に注いでいたので、たぶんあと3~5年くらいかかっていたように思いますし、そして2年目か3年目であきらめていた……。それでも短期間で頑張れて、かつ内定をもらえたのは、御社のコンサルタントが、私のできる範囲でやるべきことを提示してくれて、さらに手助けをしてくれたからだと感じています。
大変だったスタートダッシュ それを乗り越えて感じたCRAのやりがい
峰尾:では、入社されてからのお話をお聞かせください。これまでのご経験が生きたと感じたことはございますか?
Fさん:担当する試験の対象疾患や薬の機序、検査内容の理解では、これまでの経験が大いに役立ちました。この点は医療職を経験していて良かったな、と思います。当然、臨床検査技師だけでなく、薬剤師、看護師を経験されている方にも当てはまることです。
ただ、GCPや治験の手続き、病院とのやり取りなどは入社後しっかり勉強が必要です。その点は、座学やOJT研修で学ぶことができます。
峰尾:そうですね。CROはどの会社も過保護なくらい手厚い研修がありますよね。
Fさん:そうですね。私の会社でも1か月くらい座学でGCPを教わって、その後1、2か月くらいプロジェクトでサポート業務などをやりながら教育を受けます。ただ、私の場合は少し特殊で最初の1か月が終わって病院を受け持つことになって……。いきなり、先生や看護師、CRCなど、治験に参加する方の前で、手順などの説明会を実施しました(笑)。
峰尾:いきなりですか! それはなかなか珍しいですね。大変ではなかったですか?
Fさん:もちろん大変でしたし、驚きました。でも、社内でリーダーの方を医師に見立てて、説明の練習をする機会をたくさん作ってもらったので、当日は落ち着いて臨めました。どうしても答えられなかった質問についても、同行していただいた先輩に助け舟を出してもらって回答することができました。病院に提出する資料作成についても、一旦自分で作って、それを先輩に添削していただくという方法でこなせました。
今でも、まだ先輩に質問してしまうことがありますがCRA業務を回すことができています。未経験からの挑戦でも、当然自力でしっかり勉強することは必要ですが、先輩方のサポートを上手く活用することで一CRAとして業務をすることができます。
峰尾:なるほど、大変ではありつつも乗り越えられたということですね。では、Fさんは今後どのようなCRAを目指されるのですか?
Fさん:私はCRAのプロフェッショナルを目指したいです。そのために、さまざまな疾患領域の治験を経験していきたいと思います。そして、私のように未経験からCRAになった方をしっかりサポートできるような頼れる先輩CRAになりたいですね。
峰尾:ありがとうございます。最後に、CRAを目指されている方にメッセージをお願い致します。
Fさん:はい。新薬によっては医療水準を大きく変えるかもしれないものであり、それが生み出される過程に携わることができるという点がCRAのやりがいです。私が携わっている治験薬が、かなり新規性の高いものであるということもありますが、実際に先生に治験薬の説明をして、先生から「それすごいね!その薬が本当に世に出るのであれば、未来が明るいね」って言われたときはとても嬉しかったですし、この治験を成功させたい! と思いました。
新規性の非常に高い治験薬を担当する機会はたくさんあるわけではないと思いますが、製薬企業が新薬を出すということは、既存薬と比較してより良い効果があったり、患者様のQOLを改善したりと、医療水準を良くするメリットがあるわけです。そのため、このやりがいを感じる機会は豊富にあると思います。
とはいえ、CRAになるとこれまで医療従事者として働いてきた頃には感じなかった大変さを感じるときもあります。例えば、CRAは担当病院にとって外部の人間です。病院の方に対して細かい気遣いをする必要も出てきます。
大変なこともふまえて、それでもCRAを魅力に感じている、挑戦したいと思われる方は是非チャレンジしてみてください。頑張れ!