第1回 CRAに知ってほしい、育薬における臨床研究の本質的な意義 ~治験データと臨床実態のギャップを埋める~
第2回 臨床研究分野におけるメビックスの取り組み
第3回 メビックスでの臨床研究CRAの採用について
▼インタビュイー:村林裕貴様 メビックス株式会社 執行役員 研究推進本部長 研究統括責任者 内資系製薬企業で臨床開発職を経験し、企業治験を主体としている CROへ転職。リーダーおよびマネジメントを経験した後、2015年にメビックス株式会社へ転職。以降、プロジェクトマネジャー、教育責任者等の役割を経て2020年から現職。 |
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▼インタビュアー:吉原貴 inspire株式会社 代表取締役 大手人材派遣会社での製薬関連新規事業立ち上げ、CROでのビジネスディベロップメント・人事・経営企画、経営コンサルティング会社でのコンサルタント・経営管理全般、メディカル専門の人材紹介会社等を経て、2017年にinspire㈱を立ち上げ、メディカル専門の人材紹介事業を運営。 CRO出身の業界に精通したキャリアコンサルタントとして、CRAの転職も多数の実績を持つ。 |
*インタビュー実施日:2021年9月21日
市場が拡大する臨床研究に特化したCRO
吉原:本日はお時間を頂き、ありがとうございます。
さて、本来御社のCRAの採用についてお伺いしたいところなのですが、CRAの方々がそもそも「臨床研究とは?」という状態なのが実態です。ですので「臨床研究とは?」いう基本的なところからお話を聞かせていただきたいと思います。
本日のお話を踏まえ、2回目に御社の特長、そして3回目にやっと御社の臨床研究CRAの採用について伺うという、壮大な3回シリーズということで(笑)。
まず、村林様のご経歴をお伺いしてよろしいでしょうか?
村林:私は修士卒で、その後内資製薬会社に入社し、そこで臨床開発職を計8年経験しました。CRAに始まり、治験のプランニングや薬事関連の業務にも関与しており、8年間、治験中心に臨床開発にどっぷり浸からせていただいていました。
その後、企業治験を主体としているCROに転職をして2年間、マネジメントをしました。
そのうえで、当社に転職して6年半となります。
吉原:ありがとうございます。そうすると今回の趣旨である、CRAの方々に治験と臨床研究の違いや、それぞれの良いところをお伺いするのにはぴったりということですね。
村林:そうですね。かなり具体的にはお話できると思います。
吉原:臨床研究のお話をお伺いする前に簡単に御社のことをお聞かせください。会社名は業界のなかではある程度認知されてきたのかなと感じるのですが、一方で臨床研究についてはあまり理解されていないというのが率直なところです。
ですので、御社の特徴は十分知られていないと思いますので、御社がどういったことにフォーカスされているか、どういった特徴のある会社なのかを簡単に教えていただけますでしょうか。
村林:まず臨床研究に特化しているというのは当社の強みでもあると思います。やはり臨床研究は臨床研究ならではのレギュレーションがあり、臨床研究固有に必要な支援があると思っています。
治験では承認申請を目的に試験を行うわけですが、企業治験を主体としているCROは、製薬会社が主体となって行うなかで、その一部を支援するというのが一般的かと思います。
一方で臨床研究は、医療機関/アカデミアの医師が主導して進めていくものなので、製薬会社としての介入にはある程度の制限が設けられてしまいます。なぜならば、製薬会社が必要以上に介入すると、自社製品をより多く売りたいという思惑と、臨床研究として客観的なエビデンスを取るという目的とがコンフリクトしてしまう懸念があるためです。
ただ、臨床/アカデミアの医師は臨床研究の専門家ではない場合が少なくないこと、また臨床研究を行うための十分なリソースをお持ちでないことなどから、当社のようなCROへの依頼が発生します。そのため、CROとしての支援をご依頼いただくと、当社がより主体的にその臨床研究をリードしていくことが、企業治験の支援に比し、強く求められます。そういった支援に特化しているというのが我々の特徴であり、そういった実績から裏付けられる支援の幅の広さと質の高さが当社の強みとなっています。
吉原:臨床研究に特化されており、企業治験を主体としているCROに比べ、御社がある意味でリードを取る形で、試験のプランニングから遂行までを支援しているということですね。
村林:おっしゃる通りでして、私は企業治験を主体としているCROにもいましたけれど、モニタリングが中心であるということ、承認申請に耐えうる試験データを残せるように、医師とのコミュニケーションを円滑にしていくということが主な目的でした。それに対し、当社のCROとしての臨床研究への関りは、プランニングからパブリケーションまでの全体を一貫して一つの会社で行うことによって、研究責任医師とのコミュニケーションが一貫して行われる、期間短縮の工夫の余地が大きいなど、試験への関与の深さと広さは、臨床研究と治験の違う部分だと認識しています。
ですので、CRAもモニタリングをするだけでなく、幅広く試験に関わることができるメリットを感じられると思います。
吉原:それは、企業治験を主体としているCROとは大きく違いますね。
ところで、臨床研究法(*1)ができて以降、日本の臨床研究は確実に質・量とも上向きなのかなと思うのですが御社の事業の状況はいかがでしょうか?
村林:臨床研究法は2018年4月1日に施行されたのですが、当社では、それに先立つ2017年末に特定臨床研究オペレーション室を立ち上げました。
それは臨床研究に特化しているという我々のそもそものコンセプトから、他社に先立って臨床研究法に基づくこと、なかでも特に特定臨床研究(*2)の支援に力を入れていくという意気込みの表明であったわけです。
その組織をキックオフしたことによって、関連する情報、ノウハウ等を蓄積し、そのことで支援の質を高めてきました。その結果、顧客から「こういう時どうするのですか?」という相談を非常に多く受けるようになりました。なかには、個々の医療機関/アカデミア、さらには学会としてのご相談もいただきます。そういった際、先方の窓口となる臨床研究に関わる医師の方々とのコミュニケーションも特定臨床研究オペレーション室でやっておりますので、臨床研究法に基づく臨床研究の進め方について、我々のなかに情報が蓄積されていって支援に役立てることができているという自負はあります。
多数の臨床研究を受託し、遂行するなかで、臨床研究法への対応のナレッジを蓄積して、次の支援に活かしていくということが今、できています。
吉原:そうすると受注数や業績はかなり上がりましたか?
村林:特定臨床研究だけで伸びているわけではないですが、受注状況でいうと試験数で、3年前に比し、おおよそ3割は伸びています。当然、それに比例して売り上げも順調に伸びています。
吉原:日本CRO協会の発表(*3)によると、「2020年の会員会社の総売上高は2019年より83.3億円(1,949.9億円→1,866.6億円)4.3%減少した。」とのことです。そのなかで受注が3割増えているというのは相当すごいですね。
村林:特に企業治験はいま頭打ち状態になっていることは間違いなくて、モニタリング業務の案件数はなかなか伸びない状況です。そのうえ、Covidの影響でリモートでのモニタリングがある程度受け入れられてきたことで、
「実はモニタリングに人的リソースをかけなくてすむのでは?」
ということになってきています。これらのことを考えると、今後企業治験のモニタリング業務を受託するという事業が伸びていくということは、なかなか難しいと思います。
一方で、製薬会社は、メディカルアフェアーズ活動に力を入れており、その結果臨床研究にも力を入れるという状況があります。また、臨床研究の目的に応じて、従来のように対象患者を前向きに診察/観察する研究だけでなく、医療データベースの利用、患者からの直接のアウトカムを収集する研究など、様々な臨床研究がおこなわれています。
そして少し述べたように、オペレーションだけでなく、試験のデザインからご相談いただくことも多く、CROとしては今後まだまだ市場は拡大すると考えています。
吉原:そうすると今、臨床研究のCRA採用枠がかなりあるという状況ですか?
村林:はい!
また、当社はモニタリングをすることだけにフォーカスせず、プランニングからパブリケーションまで積極的に対応します。そして、どのステージでも今引き合いが増えている一方で、CRA含め、相談案件数に対し十分なリソースを確保できておらず、やむなくどの試験であればご支援できるのかと日々考えている状況です。
ですので、CRAを中心に、データマネジメントや統計の担当者含め、多数募集しています。
吉原:本当に業績は好調のようですね。御社の採用状況は第3回目で、ぜひ詳しく聞かせていただきたいと思います。
*1:臨床研究法・・・「臨床研究法の解説文」 一般社団法人日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/about/clinical-research/
*2:特定臨床研究・・・「臨床研究法の解説文」 一般社団法人日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/about/clinical-research/
*3:「2020年(1月~12月) 年 次 業 績 報 告」 日本CRO協会
https://www.jcroa.or.jp/outline/2020report.pdf
臨床研究とは? ~育薬における臨床研究の重要性~
吉原:冒頭でも申し上げましたとおり、企業治験のCRAの方は、それはCROでも製薬会社にいらっしゃる方でも同様なのですが、臨床研究のイメージがなかなか湧かないと思うので、本日はそちらにフォーカスして聞かせていただきます。
まず臨床研究の目的についてです。治験で言うと世の中に新しい医薬品を届ける、新薬を開発し承認取得というゴールを目指すわけですが、製薬会社が関与する臨床研究はどんな目的に向けて行うものなのでしょうか?
村林:まず治験がグローバル化したことで、承認取得段階では、日本人のデータが少ないという状況があります。これは、申請を行う国ごとの開発タイムラグをなくし、最短で世界同時承認を目指すというブロックバスター(*4)的な医薬品であればあるほど、製薬会社は、できる限り必要最低限の少ないデータで承認戦略を組んでいくためです。その結果、国際共同治験での日本人の症例数が少なくなりがちです。
そうすると、例えば日本人における安全性のデータが不十分といったことになりやすいです。一方、臨床医は、様々な背景を持った様々な状況にある個々の患者さんにあった、より適切な処方をおこなうためにデータを求めるわけです。そういった臨床現場のニーズに対し、製薬会社はPMSや臨床研究などの上市後の様々な取り組みでエビデンスを積み増していく必要があり、またそういったニーズに応えていくことで、適正使用ならびに製品価値最大化を目指していくこととなります。
そこから、臨床研究でどういったエビデンスを足していくべきか、足していけるかを検討することが、メディカルアフェアーズ部門の重要なテーマとなっています。
補足すると、こういった日本人データの不足は治験の計画段階から常にメディカルアフェアーズ部門と臨床開発部門で話し合われている戦略の一つであり、こういったことからも上市後の臨床研究の重要性はCRAの皆さんに知っていただきたいですね。
吉原:そうやって、臨床研究のテーマが立ち上がってくるのですね。
さて、例えば日本人のデータが少ないから臨床研究でデータを取るといった目的に対して、臨床研究なりメディカルアフェアーズ活動はどのようなゴールを設定されるのでしょうか?
治験でいうと承認取得というのがわかりやすいゴールだと思うのですが。
村林:わかりやすく言うと、「論文化」というのが、ゴールとなります。データを取り、エビデンスを確立しても、それだけでは臨床現場への情報提供としては使えないためです。
他には、学会発表などでエビデンスを共有するといった方法もあるのですが、パブリケーションされた論文というのは、この世界では非常に価値を持ちますので、まずは論文化を目指すこととなります。
そのため、そのインパクトファクターの高さなども考慮しながら、どういった雑誌に載せていくのかなども、メディカルアフェアーズ部門で検討しています。
吉原:雑誌の選定という意味では、やはり最終的に治療ガイドラインに影響を与えるような、権威のある雑誌に掲載できるかということを考えているのでしょうか。具体的には、治療ガイドラインに標準選択薬として採用される、抗がん剤であればセカンドラインからファーストラインに上げることなどを、製薬会社は目指しているのかと思いますが。
村林:例えば、安全性に関し、競合製品が後から安全性のデータを出してくると、自社製品でもそういった安全性のデータも積み増していくことが最低限必要となってくるでしょうし、また競合となる他社の開発品の承認状況に応じて、不足しているであろうエビデンスを早めに出していくことで、より早く深く自社製品について医師に認知してもらうことに繋がっていくこととなります。
特に抗がん剤は、治験のデータだけでは臨床医の方々は使いづらいということが如実に出ています。ですので、上市後に様々なエビデンスを追加することによって臨床医や患者さんにより安心して使っていただくための情報提供を行うことはもちろん、競合製品との差別化ポイントを明確にし、それらの情報を臨床の現場に浸透させていくようにします。そういった活動を行うことで、臨床現場での信頼性を上げ、治療ガイドラインに影響を与えようとしますね。
吉原:そうすると、臨床研究というのは単に不足するデータを取るということではなくて、どういうエビデンスを創出したら患者さんや医師にとって使いやすい医薬品となるのか、どうしたら治療ガイドラインで取り上げられるような医薬品になるのかといったことを意識して取り組むものということになりますね。
村林:おっしゃるとおりです。先ほど、“わかりやすく言うと「論文化」がゴールとなる”と申し上げましたが、究極的には治療ガイドラインや、治療の一般的なマニュアル等に落とし込まれていくことが本質的なゴールとなります。
吉原:御社が関わった臨床研究のなかで、治療ガイドラインの改訂にまで至ったものはあるのです?
村林:はい、光栄なことにそういう実績もあります。
治療ガイドラインの改訂というのは並大抵のことではないので、本当に良い機会に恵まれたと思いますし、その臨床研究の意義が認知された結果だと思っています。
そして、当社としましても、我々の支援が最も実を結んだ事例の一つだと思います。
吉原:御社の仕事が治療ガイドラインに影響を与え、臨床の現場でその治療ガイドラインに沿って処方されるわけですよね。それは、すなわちより多くの患者さんに届くということですから、医薬品ビジネスに関わることの意義をとても実感できたのではないでしょうか。
一方、企業治験主体のCROですと、PhaseⅡを担当して、その後のPhaseⅢや承認申請はどうなったかもわからないといったことがほとんどかと思うので、御社で臨床研究に関わることのやりがいは大きそうですね。
村林:私も企業治験主体のCROにいましたが、個々の試験を完遂することと、開発品の最終的なゴールに到達することは別のものになっていて、患者さんや医療への貢献が見えにくいというのは少なからず感じていました。
さらに言えば、私は、製薬会社にもいたわけですけれど、製薬会社にいてもその開発品をずっと担当し続けるかどうかはわからない。そういう意味では、1つの試験の本質的なゴール、すなわち1つの試験を行うことで、そのデータが臨床の現場にどう影響を与えていくかを、より身近に見ることができるという点で、我々の取り組みはCRAの方にとって、やりがいを感じていただけるのかなと思っています。
*4:ブロックバスター:一般的には年間の売り上げが1000億円を超える大型製品を言う
拡大する臨床研究のアウトソーシング市場と、その背景
吉原:ここまで、臨床研究の背景にある、いわゆる育薬的な検討が、実は上市後だけでなく、開発段階から検討されており、その育薬のゴールに向かって、臨床研究が非常に重要な立ち位置を占めているということをご説明いただきました。
さて、その臨床研究をCROに外注する背景はどういったところにあるのでしょうか。
村林:大手の製薬会社で、メディカルアフェアーズ機能の体制が整い、臨床研究の経験もしっかりあるような会社の場合、我々は提案するというよりは、立案された臨床研究をしっかりやるということが支援の中心になることが多いですね。
ただ、実際には、そういった会社ばかりではないという現状もあります。バイオベンチャー含め、メディカルアフェアーズ機能を構築中の製薬会社、日本に本社機能がない製薬会社などもまだまだあります。そういったお客様には、臨床研究をどうプランニングすべきかといったところから提案をさせていただきます。
また、業界全体が特に希少疾患に注力しており、治験では十分なデータが取れないことも多く、上市後に様々な課題が見えてくるといったことが多い領域でもあります。そうすると、そういった課題をどう解決していこうかといったご相談をいただくこともあります。
吉原:会社個々の状況に応じて、ニーズは違うということですね。ただ、どちらにしても企業治験に比し、今後ニーズは増えていくという印象ですね。
村林:そうですね。あとは、再生医療ベンチャー、医療機器会社なども、メディカルアフェアーズ機能はない、または整備が進んでいないという状況です。さらに言えば、日本でも承認取得した治療アプリ、まさにデジタルセラピューティクスも出てきており、そういった会社からも受託の機会があると思います。
吉原:デジタルセラピューティクスまで! そうすると、御社がターゲットとする領域での市場はまだまだ広がりますね。
村林:本当にそうですね。
臨床研究の企画の主体
吉原:今回のインタビューでは、CRAの方に臨床研究の魅力を伝えたいと思って、質問を準備してきましたが、かなり良いお話を伺っていると感じます。
村林:一般的なイメージとして、「治験の方が上」みたい風潮があるように思いますが、上とか下とかではなくてそもそもの意図、患者さんや医療への貢献の仕方が全然違う。
ただ、患者さんや医療への貢献を目指すという面では、どちらも重要だし、やりがいの高さは一緒だと思います。あとは個人の価値観ですね。
吉原:ところで、治験では不足するデータ、すなわち臨床現場で必要なデータを把握して、そのデータを埋めるために臨床研究をやりましょうとなるとのご説明をいただいたわけですが、臨床研究のプランニングは製薬会社のメディカルアフェアーズ部門が担うのですか? 治験でいえば、製薬会社の臨床開発部がプランニングするように。
村林:色々なパターンがあります。メディカルアフェアーズ部門としてそういった経験がしっかりある会社では、彼ら自身で方向性を立てることが多いですね。そのうえで研究を実質的にハンドリングされるようなKOLの先生方と共に計画を練っていくということが一般的です。
しかしながら、メディカルアフェアーズ機能が充実してない企業においてはその立案をCROに依頼することもあるし、企画そのものは立案して、ドキュメンテーションはCROに全部投げる、これが最近一番多いですね。企画の骨格ができた段階で情報をCROに提供いただき、CROが研究計画書をドラフティングするという形で進める研究が今一番多い。
我々もメディカルライターを揃えていますけれど、コンセプトを理解して研究計画書を仕立て上げる、そこから関与できるというのが当社の立ち位置の特徴の一つです。
吉原:企業治験だと、CROは与えられたプロトコールに基づきモニタリングやデータマネジメなどのオペレーションを担うということが、ほとんどですからね。
村林:CRAが経験したことを、論文化するためのメディカルライティングという支援にも繋げられるような、またパブリケーションにも関与できるような体制を組んでいるのでCRAが次のステップに成長をしていくための、すなわち臨床研究のプランニングやパブリケーションにCRAも関与させてあげることが大切だと思っています。
吉原:ちなみに、CROにプランニングから相談がくるというのは、どういう経緯が多いのですか?
村林:ディオバン事件に代表するような企業の臨床研究への関与の仕方が問題になり、ある製薬会社は研究計画書への関わりは我々はやらないとされています。そのため、研究責任医師候補に試験コンセプトを提供することが、臨床研究への企業の関わり方だとされています。
ただ、それだとなかなか研究が進まないこともあり、当社がプランニングからご相談を受けるといった流れになります。
吉原:そういう流れなのですね。なかなか進まないというのは、医療機関/アカデミア側であまりGCPに則った試験デザインをできる方がまだまだ多くないといったことでしょうか?
村林:おっしゃる通りです。
そのことが問題視されてだいぶ経ちますので、最近は医療機関/アカデミア側でもそういった臨床研究に精通するスタッフの育成が進められてきています。そのため研究計画書をしっかり書くということを、医療機関/アカデミア側でできることも増えてきていますが、それでもそういった人的リソースはまだまだ枯渇しているので、当社のようなCROにご相談をいただくという流れになっています。
吉原:そうすると御社が医療機関/アカデミアに入っていってプランニングのお手伝いをするということですね。
村林:はい。企業側からだけでなく、医療機関/アカデミア側から支援のご依頼を受けるということも多々あります。
吉原:そうすると御社のCRAでも、実はCRAといいながらプランニングから一緒に関わることができるということですね。
村林:特にプロジェクトリーダーになってきますと、最初のキックオフの段階から医師とのコミュニケーションが発生します。このあたりが臨床研究にはあって治験にはない醍醐味だと思います。
CRAをしつつも、モニタリングだけでなく、プランニングやパブリケーションを見たうえで、プロジェクトリーダーとなって先生と研究を作っていく、試験を作っていくんだというマインドセットでドクターと一緒に取り組めるというのは治験にはない魅力です。
臨床研究でのエビデンスを広めるパブリケーション
吉原:試験をプランニングし、モニタリングで症例データを回収してデータマネジメント、統計解析と進んでいき、良い結果が出ましたと。そこから治験だとCSRとかCTDに結実していくわけですが、臨床研究の場合は、論文化というのが一つのゴールになるということでした。
その論文化ですが、臨床研究において、どういう風に進められていくのでしょうか?
村林:まずパブリケーションプランを策定します。
どの雑誌に掲載することを目標とするか、誰を論文のオーサー(第一執筆者)にするかといったことから、いつぐらいに登録が終わりそうで、いつぐらいに論文を出していくのかといったスケジューリングなどを検討していきます。
細かいところで言うと、解析結果が出た後に誰がどのように論文骨子を考えるのか、誰がオーサーシップを持った研究者であるか、そういった緻密なプランを立てています。
そして、当社ではこういったところから関わらせていただいており、医師や製薬会社の方々と一緒に議論させていただいています。
もちろん、そうなると当社の担当者が論文というものを理解していないと話にならないので、CRAのうちからこういった仕事に関与させています。最終的にパブリケーションに関与できるという点では、CRAの枠を超えていますよね。ですので、当社ではCRAも、モニタリングだけでなく、臨床研究全体に関わっていただくことで、CRAの先を見据えた成長やキャリアアップをバックアップしています。
吉原:そうすると御社はCRAという枠で人材を探してるというより、臨床研究パーソンを採用したいとお考えで、ただ入口はCRAだけども、という感じですよね。
村林:まさにおっしゃる通りで、「CRAって、モニタリングする人」というような、枠組みでは考えないでほしいですね。
モニタリングもだいぶ効率化してきて従来のようなサイトビジットも少なくなっていますし、その分CRAを超えたところで医師の方々や製薬会社と関わっていただきたいというのが、我々の期待するところですね。ですので、プロトコールに沿ってCRFを回収し、GCPに則っているかを監視するだけのCRAとして採用するつもりはないですね。プランニングからパブリケーションまで支援することができる、トータルな意味での臨床研究人材候補として採用しています。
吉原:アウトプット作成に関してはメディカルライティングの部署もお持ちで、多数支援をされていると思うのですが、パブリケーション戦略、すなわちインパクトファクターなどからどの雑誌に投稿すべきか、論文のオーサーを誰にするかといった検討などもお手伝いされるのですか?
村林:そういったパブリケーションボードの運営もしています。過去に、こういった領域であればこういう雑誌に投稿したという実績を我々は持っています。さらに、ある雑誌ではレビュアーからどういう指摘があったのかなどまで、情報を蓄積しています。ですので、アクセプトまで見据えたノウハウの提供含め、パブリケーションの支援に入っていますね。
吉原:企業治験を主体としているCROでのCRAに比し、仕事の幅が相当に広いのですね。患者さんや医療への貢献を、よりリアルに感じることができそうですね。
村林:機能別に部門は分けているので、それぞれでノウハウをきちんと貯めています。そして、社員は、社内で部門異動をさせることはもちろん、並行してやりたいことがあれば兼任も比較的自由なので、そうやって幅広い経験や知識を身に付けてもらおうと思っていますね。そのようなステップを踏んで、プロジェクトリーダーやマネージャーになった時には、臨床研究全体に精通する人材、一つの試験を最初から最後まで任せられる人材になっている、というわけです。
そのような方針から、CRAにも、モニタリング以外の知識も付けさせていますね。
吉原:CROのCRAの方からは「プロトコールを作る側に行きたいが、どうすればいいか?」という相談をよく受けるのですが、御社であれば、そこも含め本当に幅広く関与できるのですね。
さて、論文ができ、パブリケーションがなされるところまでご説明を伺いました。次に、その結果を、製薬会社のメディカルアフェアーズ部門は、どう臨床現場に浸透させているのですか?
村林:論文化されたということを、学会など様々な場で報告していく、またMSLが個々にKOLにご説明に伺うといったことをしています。
その進め方はエビデンスの重要度によって、研究会を開くということになりますが、それは製薬会社のパブリケーション後の戦略となります。
そして、エビデンスのインパクトが大きいと、医師の側から学会中心にそのエビデンスを検討してガイドラインに含めていくということが自発的におこり、その結果、治療ガイドライン改定に繋がっていくことになります。そうなってくると一企業としての製薬会社のエビデンスではなく、診療に必要なエビデンスとして医学会の財産となるようなところまで到達するわけです。そこまでいくと、臨床研究の本来的な意義が最大限発揮されたと言えるかと思います。
吉原:そうすると、一つの試験を完遂することではなく、医療への貢献に繋がる仕事だということですね。
村林:もう少し申し上げると、製薬会社側も、自社製品のためのエビデンスではなくて、疾患全体の啓発に繋がっていく、より診断を円滑にしていくといったエビデンスを重視するようになってきており、自社製品の使用促進を前提としない疫学的な調査も増えてきています。
ですので、医薬品開発が個々の製薬会社の利益追求に特に偏っているというわけではないですが、「育薬」という領域においては、一つの企業の利益によらず、医療・医学の発展に寄与していこうという気運が強いなかで医療に関与できることも、臨床研究のやりがいがある点だと思います。
吉原:イメージとして、マーケティング部門やセールス部門で講演会、研究会をバンバンやって、そこで懇意のKOLに発表させて、というイメージだったのすが、そういうことではないということですよね。
村林:はい、そういうことです。それこそが、メディカルアフェアーズ部門を、営業部門と切り離した意味合いですし、自社製品によらず、領域によらず、そういったプロモーションのためのエビデンスではないものがかなり増えてきています。
余談ですが、一つの企業、一つの医薬品によった臨床研究をあまりやるべきではないという気運がディオバン事件以降非常にあって、先生が臨床研究を企画する際もバイアスがかかってしまう試験デザインを嫌うようになりました。よくseeding trialと言われる自社の医薬品を売るためだけの試験は、よくないことだと敬遠される傾向にあります。
吉原:ありがとうございます。臨床研究、そしてエビデンスを作ることの魅力、そして御社含め「育薬」に関わる方々が、それぞれ所属する組織の利益を超えて大きな枠組みでの医療に皆で貢献しようとしているということが印象的でした。
御社の仕事は、疾患領域、医学領域全体への支援に繋がる仕事だということですね。
治験から臨床研究にフィールドを変えて感じたこと
吉原:最後に、村林様個人として、治験から上市後の臨床研究にフィールドを移されて、どんなご感想を持たれていますか。
村林:私がメビックスにきて6年半、業界における臨床研究の位置付の捉え方や、法規制など、まさに環境がダイナミックに変わったと実感しています。
お話した通り、治療ガイドラインの更新につながった仕事もあり、臨床現場に寄り添った貢献を実感できるフィールドだなと感じています。
また、そのような臨床研究を取り巻く環境の変化にあわせて、当社も戦略的に支援の幅を広げ、製薬会社や医療機関/アカデミアから期待されることも、より広く、高いものが求められるようになりました。最初から最後までフルスペックで支援をすることが期待されるなど、我々がいないと試験がまわらないということも多く、下請け感のない提案型の支援機関として認知されつつあると感じます。
ビジネス面で言っても、企業治験の支援に比し、臨床研究分野は非常に成長性が高く、臨床研究、そしてメビックスという選択は、今振り返っても良い選択だったなと思います。
吉原:企業治験を担当されているCRAの方には参考になるご意見ですね。
村林:企業治験を担当されている多くのCRAの方にも、ぜひ当社に応募していただきたいのですが、まずは治験と臨床研究の違いを理解していただきたいですね。
特に、何をするか以上に、それらの「目的」の違いですね。そこを理解していただければ、求職者の方は自分で選別できるようになるのだと思います。もちろん、当社も選考の過程で、丁寧にご説明するようにはしていますが。
吉原:CRAに限らず、多くの求職者は、「何をするのか?」「自分はそれをできるのか?」という観点で仕事や職を見がちですが、そもそもの目的が何か、医療に関わる仕事であれば、これとこれをやったことによって患者さんや医療にどう貢献できるのかを理解してもらわないといけないということですね。
村林:当社の採用選考で、私も最終面接する立場なのですが、CRAがやりたいのか臨床研究がやりたいのか、そもそも何をやりたいのかをお聞きすると、
「今、CRAがやりたいです。治験でも臨床研究でもどちらでも良いです。」
とおっしゃる方もまだ多くいるのですが、面接で細かくご説明すると、目的もやることもだいぶ違って驚く方がいらっしゃいます。ですので、同じ土俵で考えないほうが良いですよと言いたいですし、応募者の方にとっては応募前、すなわち応募を検討する段階で、臨床研究についての情報が得られるような環境を作っていかなくてはと思いますね。
吉原:そういった意味ではCRAの方々に、治験と臨床研究の違いをご理解いただけるお話を伺えましたし、治験も臨床研究も、両方を経験された村林様の言葉は重みがありますね。
次回は、これだけやりがいのある臨床研究という分野において、御社がどのような事業展開をされているのかを、お伺いさせていただきたいと思います。
次回も楽しみにしております。ありがとうございました。
村林:ありがとうございました。
◆担当コンサルタント inspire株式会社 吉原貴の感想
当初は人事のご担当者様に、臨床研究CRAの採用状況や採用方針についてのインタビューの申し込みをさせていただきました。 しかし、 「そもそも臨床研究や、その前提にある育薬について、CRAの皆さんがまだご存じない。ですので、まずは、あまり当社のことにこだわらず、臨床研究や育薬の魅力をお話させていただく場にしませんか?」 という、それこそ「一つの企業の利益」によらない逆提案をいただき、今回、臨床研究や育薬の全体像について、お話を伺う場とさせていただきました。 村林様からは、治験だけでは不足するデータを補い、医薬品が最大限のパフォーマンスを発揮されるにいたる過程をかなり丁寧にご説明いただいたかと思います。 そして、治験を経て上市した医薬品に関し、どのようにして足りないエビデンスを積み増し、臨床現場に浸透させていくかをご理解いただけるインタビュー記事になったと感じています。 何より、治験に比し、臨床の現場によりダイレクトに貢献する実感を味わえる分野/仕事であることが伝われば、幸いです。
なお、次回は 「Ⅱ.臨床研究分野におけるメビックスの取り組み」 と題し、メビックスがこの分野でどのような取り組みをされているかを伺います。ご期待ください。
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