■インタビューを受けてくださった方:Kさん
薬学部卒。新卒で調剤薬局に勤務後、CROでのCRAを経て、製薬会社でのCRAに転身。製薬会社への転職の際、MCPの運営会社であるinspire株式会社の転職支援をご利用いただいた。
■インタビュアー:inspire株式会社 代表取締役 吉原 貴
MCPの運営会社である、メディカル専門の人材紹介会社、inspire株式会社の代表取締役。大手人材派遣会社での臨床開発職派遣事業立ち上げ、CROでの営業企画・人事・経営企画などを経て、2017年にinspire株式会社を創業。
1.製薬会社への転職を考えるようになった経緯
吉原:お久しぶりです。その節は転職のご支援をさせていただきありがとうございました。
今日の趣旨ですが、Kさんは当時、CROのCRAから、製薬会社のCRAへの転職に成功されたわけですが、今回は、CROのCRAの方々に向けて
・製薬会社のCRAと、CROのCRAの違い
・製薬会社への転職を成功させるために必要なもの
について、ご自身のご経験の範囲で伝えていただきたいと思い、インタビューのお時間をいただきました。
Kさん:はい、ご無沙汰しております。こちらこそ、その節はありがとうございました。また、今回当時の応募書類などを事前に送ってもらい、私もちょっと懐かしく拝見させていただきました。
吉原:それで早速なのですが、CROから製薬会社に行きたいと思ったきっかけは?
Kさん:CROでの最初の抗がん剤のプロジェクトで、とても運がよかったのですが、モニタリングだけでなく承認申請も手伝わせていただきました。
そのなかで、本当に一生懸命やってきたモニタリング業務が、実は承認申請用の資料のほんの一部でしかないことを知って、衝撃を受けたことがきっかけです。
承認審査中、厚労省の査察官が来られて、1週間程度、様々な質疑応答が繰り返されていったのですが、自身が関わったモニタリングに関する質問は本当に一部分だけでした。
CROですと、モニタリングやデータマネジメントといった業務の受託が多くの割合を占めるわけですが、医薬品を世の中に生み出していくには、臨床開発部が行うモニタリングだけではない、多くの担当部署が係る側面があることを知り、CROだけでは経験できない全体的な臨床試験を理解したいと考え、製薬会社を意識するようになりました。
その後もCROにて、主に抗がん剤を担当し、First in Humanの試験、症例数の多いP.Ⅲのグローバル試験などを経験させていただき、CROではある程度達成感を持つことができたので、次のステップに行くことにしました。
2.製薬会社での仕事と、CRO時代との違い
吉原:製薬会社に入られて、特にCRO時代とは違うと感じられる役割はどのようなものでしたか。
Kさん:例えば、プロトコールの立案への関与ですね。
CROのモニタリング部門の場合は、プロトコールがもう出来上がっている状態から関与することが一般的だと思います。
一方、私が入社した製薬会社では、プロトコールの大枠が決まったくらいの段階でCRAがKOLに相談に行かせていただけました。KOLですので、施設単位ではなく、日本というレベルで治験や対象疾患に関して議論させていただくこととなり、非常に勉強になりました。
具体的には、想定しているクライテリアなど、試験デザインの案を前提に、日本ではどのぐらいの母集団が必要になるかの想定をKOLに提示します。そのうえで、この試験を日本で実施する妥当性や、このクライテリアでの患者さんの母集団の規模などについて、KOLの考えを伺い、自社に持ち帰るといったことをしていました。
特に、試験デザインが想定しているレジメンについては、シビアな議論になります。外資製薬会社だったので当然グローバル試験が前提であり、そうすると日本と海外の違いが出てきます。そのため、KOLからは
「日本の標準的な考え方からすると、この投与量はちょっと高すぎるかもしれないですね。臨床医は、このレジメンの投与量で決め打ちだって言われると、組み入れ数は減る可能性が高いので、日本の試験では投与量を一定程度下げられるといった幅を持たせられるといいよね」
といったご意見をいただきます。
吉原:お忙しいKOLがそのような議論に時間を割いてくれるのはどうしてなのですか?
Kさん:やはり海外で使える薬が日本で使えないということをすごく問題視されている先生方がとても多いと思います。
海外で治験をやるのであれば、日本でもやってほしい、日本でやるならば自分のところで治やりたいと思われますね。そうやって新しいことに積極的に関与されるので、治験含め様々な情報も集まってくるわけです。そういう先生がやっぱり各分野でのトップ、すなわちKOLになるのだなと思いました。
吉原:KOLと認知される先生方は、やはり相応の問題意識を持ち、努力されているのですね。
そのKOLからのプロトコール案に対するご意見を会社に持ち帰ると、社内ではどんな議論になるのですか?
Kさん:例えばメディカルライターとの議論ですと、プロトコール案の背景に関し、実はこういう試験結果があるのだけど、その論文が出るまではこのデータは公表できないといった説明をいただくといったことがありました。
また文言一つとっても、以前FDAに申請したときにこの文言だとダメだと言われた経緯からこの言い回しでしか表現ができないなど、CRO時代には見えなかったプロトコールの背景を知らされました。
もちろん、説明を受けるだけでなく、統計的にどのような数値を出せば説得力が上がるか、そしてその数値は現実的に出せるのか、といった議論もさせていただきました。
KOLからいただいた意見を、グローバルレベルで会社にインプットして、でもグローバル試験として多くの国で同じ試験を一斉に実施するので、日本人だからって特別扱いはされないことの方が多いのです。
ただ、それでもこのような議論を諦めずに丁寧におこなっていくことで、部分的にでも持ち帰った意見が取り入れられてプロトコールが変わったりすることで、日本の患者さんに新しいより良い薬を届ける可能性を上げられるというのは、とてもエキサイティングですよね。
こういった業務はやっぱり製薬会社だからこそだと思います。
3.製薬会社への転職活動内容と成功のポイント
吉原:時間をさかのぼって、製薬会社への転職活動のことを聞かせてください。手前味噌で恐縮ですが、私が支援させていただいて、いかがでしたか?
Kさん:メーカーに行きたいという思いや、その理由はあったのですが、それらや自身の経歴を適切に言語化できていませんでした。たった3回の面談で言語化していただけたことが、すごく記憶に残っています。
製薬業界はもちろん、臨床開発に関しての専門性が高く、「First in Human」と言って、それがどういうことかを説明しなくてもよいといった点、良い支援を受けられるかもという期待がスタートでした。
そのスタート前に自分一人で作った職務経歴書は、自身が何を目指すかに関係なくなんとなくこんなものかなとやってきたことをふわふわって書いたものでした。そこから、まず何がしたいのかの整理を手伝っていただき、そのやりたいことや、どういう経験からそう思うようになったかを志望動機や職務経歴書に落とし込むことについて、すごく的確なアドバイスをいただいたと思います。
確か、3回面談させていただいたはずです。最初の面談で希望をお伝えし求人のご案内いただき、2回目で自身が作成した経歴書に対し修正のアドバイスをいただき、最後に模擬面接をさせていただいたと思います。
吉原:そうですね、当初いただいた職務経歴書は、ご自身がやってきたこと、アピールしたいことをひたすら説明的な文章で綴っていくという感じでしたね。せっかく良い経験をしているのに、製薬会社にアピールできる部分をうまく表現でいていませんでした。
ですので、面談回数はともかく、特に職務経歴書はメールベースでかなりやりとりさせていただきましたね。残っているファイルを見ると、バージョンⅤまで行っています。
Kさん:はい、そのやりとりを通して、すごくブラッシュアップされたと感じていました。
吉原:模擬面接もさせていただいたのですが、いかがでしたか?
Kさん:かなりダメ出しされ、実は結構ショックでした!
吉原:そうだったのですね!
Kさん:結構細かく、
「ここはこのくらいクリアに言った方がいい」
「今のところはわかりにくいからこういう言い回しにした方がいい」
など、いろいろ言われて結構ショックだったんですよ(笑)。私、結構言えていると思っていたので。
しかも、的を射ているので、さらにショックなんです!
でも、言えていると思っていても伝わらないのだって気付きを得られたという感覚もあったので、落ち込んではいませんでしたが。
吉原:そうやって十分な準備をしていただいたうえで、製薬会社の面接に臨まれたわけですが、これは製薬会社ならではの質問だなというものはありましたか?
Kさん:レジメンや、プロトコール改訂への関与についての質問ですね。
模擬面接でそのものの想定質問はなかったのですが、職務経歴書の作成を通して、自分の中でちゃんとこれまでの経験の棚卸ができていたので、すっと回答はできました。
でも、深い棚卸をしていず、CRO的にいかにGCPやプロトコールを遵守し、CRCさんとしっかりコミュニケーションを取って、期限通り症例を入れましたといったことだけの準備だったら、答えられなかったと思います。
あと、最終の事業部長との面接では、日本は施設の立ち上げにすごい時間がかかるといった日本の治験環境に対する問題意識の話が出ました。ここは、自身が的確に応答できていたか自信がないのですが、自身のCROでの経験からすると、製薬会社は高い視座を求められるのだなと感じました。
振り返ってみても、こういったことに的確に答えられるよう、準備をしてくことが、製薬会社から内定を得るポイントだったのかなと思います。
そして、そのためには、CROだから日々のモニタリング業務でそこまで期待されていないと思わずに、レジメンや、プロトコールのあるべき姿について、医師や製薬会社と議論するということを行なっていくことが必要だと思います。
もちろん、そのためにはたくさんの論文を読む、抗がん剤であれば治療方針が中心の診療ガイドラインだけでなく取り扱い規約まで読み込み、サブタイプレベルであらゆる病態のパターンを勉強しておくといったことが必要です。
吉原:ありがとうございます。今後CROのCRAの方で、製薬会社を受けたいという方には貴重な情報ですね。
4.目の前の「転職」にとどまらない 「キャリア」の棚卸の大切さ
Kさん:転職活動の中で私吉原さんとお話をさせていただいて一番良かったと思うことは、自分のキャリアの棚卸をしっかりできたことで、自分のやりたいこととその理由を明確に言語化できたことです。
CRO時代、自分ではやりがい含め色々なことを感じ、そこから色々なことを考えながらモニタリング業務をやってきました。そのなかで、製薬会社に行きたいと思うようになったのですが、その思いをきちんと言語化できておらず、何となく製薬会社に行きたいなという状態でした。
それが、吉原さんの支援を受けることを通じて、自分のキャリアの棚卸をして、どの経験やイベントからどういうことを感じて製薬会社に行きたいと思ったのかがクリアになり、その結果、なぜ製薬会社に行きたいかを言語化できたのです。
吉原:それはキャリアにとって、とても大切なことですね。
面接を通過するためのテクニックを教えてほしいという方が少なからずいらっしゃるなかで、そう受け止めていただけることは、エージェントとしてとても嬉しく思います。
また、私のご支援はかなり色々と厳しい要求をするので、求職者の方にどう映っているのかを知りたいと思っていました。ですので、今回のインタビューは私自身にも良い機会でした。
Kさん:諸事情あって、今はその製薬会を辞め、海外におり、こちらで仕事をしているのですが、その応募の際、相手が欲しいと思っている人物像に対し、うまく自分をアピールできるCVを自分で作ることができました。
やはり相手が求めているものを書くって難しいんですよ。求人票に相手が求めている人物像は書いてあるので、そこをきちんと見ればいいだけのことなのですが、過去の転職のときはそこを理解していませんでした。
でも今回、海外で仕事を探す際、まず相手が求めている人物像を確認し、一方、自身のキャリアの棚卸ができていたので、相手の求めている人物像に対し自身が何をアピールすべきかの整理がすぐつきました。
また、そもそも応募企業やポジションが自身の求めているものに、100%でなくても一致程度合致しているかも判断しやすかったですね。
吉原:そうですね。求職者の多くの方は、採用側のニーズに関係なく、自分がアピールしたいことをまず書いてしまいがちですね。
Kさん:応募書類は、相手が欲しい人物像に自分がマッチしているよっていうことを伝えるためのラブレターであるはずですよね。そこに気付けたのは、すごい転機だったと思います。
若いうちに、自分を客観的に棚卸してキャリアを考えるということをできてよかったと思います。
ですので、今は転職をする必要がなくても、今後のキャリアについて考えなくてはいけないな、と感じている方は、ぜひ吉原さんになんでも相談してみたらいいと思います。自分のキャリアを棚卸できるので、一度職務経歴書を作っておくといいよって思います。
吉原:はい、今すぐ転職ではない、中長期的なキャリアについて相談させてほしいという方にも対応しているので、ぜひご相談いただきたいと思っています。
K:いやでも本当に、本当にお世話になったと思っています。
実は他にもサポートしてくださるエージェントさんともやり取りをしていたのですけど、途中からやっぱり吉原さん1本になっちゃったんです。
吉原:もちろん、他のエージェントも利用されるのは求職者の方の権利なので、問題ないですよ。
Kさん:レスポンスが早かったのと、ちょっとグイグイ来るじゃないですか。なんていうんだろう、厳しいというか、スパルタっぽい感じじゃないですか。
吉原:そうですねよね。はい(笑)。
Kさん:でも、その対応が、私がトライしようということにちゃんと向き合ってくださっているなって感じられるものでした。
でも、そういうスタイルが、合わない方もいると思います。ですので、スパルタが好きな方はぜひ吉原さんに!(笑)
吉原:そうですよね、自分でも求職者さんに対しスパルタ的だなと思っています。だから、それが鬱陶しい人は連絡も取れなくなっちゃう人もいます(笑)。
本題に戻りますが、「CROと製薬会社では違う」と言われるのですが、CROのCRAの方ですと、なかなかその違いを具体的に聞ける機会がないので、今日のお話は本当に貴重な内容だったと思います。
そういった意味で、今日は本当に貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。