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2023-11-07 08:53

バイオベンチャーの社長に伺う、必要なマインド ~株式会社レストアビジョン様CEO 堅田侑作様 インタビュー~

バイオベンチャーの社長に伺う、必要なマインド ~株式会社レストアビジョン様CEO 堅田侑作様 インタビュー~
大学発バイオベンチャーである株式会社レストアビジョンの代表取締役CEO堅田 侑作様に、会社のご紹介に加えてバイオベンチャーで必要なマインドを伺いました。

日本では2000年を過ぎたころから、多くのバイオベンチャーが誕生しています。特に近年では、国が医療関連ベンチャーを支援する動きも出てきており、国内のバイオベンチャーは活性化してきています。

 

それに伴って、各バイオベンチャーの採用ニーズも高まっており、今後ますます求人が増えていくことでしょう。実際、バイオベンチャーへ転職を検討される方とご面談をさせていただくことも増えて参りました。

 

そこで、大学発バイオベンチャーである株式会社レストアビジョンの代表取締役CEO堅田 侑作様に、会社のご紹介に加えて必要なマインドを伺いました。

 

インタビュイー:堅田 侑作

株式会社レストアビジョン共同創業者兼代表取締役CEO(Chief Executive Officer)。2010年慶應義塾大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科にて博士号取得。眼科医として10年のキャリアを保有し、当社代表を務めるとともに、2019年より慶應義塾大学医学部眼科学教室特任助教として慶應義塾大学病院の網膜変性外来を担当。大阪府出身。1985年生まれ。

【兼職等】慶應義塾大学医学部眼科学教室 特任助教、日本眼科学会認定眼科専門医

(引用:株式会社レストアビジョン webサイト)

インタビュアー:峰尾 竜徳

inspire株式会社 事業推進部。大学院(医歯理工学専攻)卒業後、内資大手CRO に入社し、臨床開発部に配属。CRA(臨床開発モニター)として、中枢神経領域のプロジェクトに立ち上げ~終了まで携わる。その後、大手人材情報サービス会社に転職し、医学生向け web サービスの運営(コンテンツ企画 集客等)を経験する。これらの経験を持って、メディカル専門の人材紹介 inspire 株式会社に入社。Medical Career Platformの立ち上げのプロジェクトマネジャーを担当。現在はその運営を担う。

 

大学発ベンチャー 株式会社レストアビジョン

峰尾:大変ご多忙の中、お時間をいただき誠にありがとうございます。本日は宜しくお願い致します。

 

堅田様:こちらこそ宜しくお願い致します。

 

峰尾:それではまず、御社のご紹介をお願い致します。

 

堅田様:株式会社レストアビジョンは、視覚再生の遺伝子治療薬開発を目的とした大学発ベンチャー企業です。パイプラインとしては、光センサータンパク質であるロドプシンを独自技術で改良したキメラロドプシンを用いた薬剤の開発を行っています。

 

会社の沿革としては、名古屋工業大学と慶應義塾大学の共同研究が始まりです。そもそもロドプシンは、光に強く反応するもののレチナールという物質を与えないと働かない動物型と、光に弱い反応しか示さないもののレチナールを要さない微生物型があります。名古屋工業大学では、この二つの型の良い点だけを持ち合わせた、光に強く反応し、かつレチナールを要さないキメラロドプシンの製作技術を持っていらっしゃいました。それを視覚再生に生かせるのではないかということで慶應義塾大学が共同研究を立ち上げたのです。慶應義塾大学では、キメラロドプシンの精製にあたり、もともと大腸菌の塩基配列から組成されていたロドプシンを用いていたところをヒトの塩基配列から組成されたロドプシンを用いることでヒトへの最適化を行い、実際に視覚再生効果を確認しました。そのころ、私はちょうど大学院に入るタイミングで、研究の実務を行っていました。

 

大学の研究では、実験を行って研究としての成果が出れば論文を発表して、そこで終了ということが多いです。しかし、当時眼科学教室教授(現 慶應義塾大学名誉教授、株式会社坪田ラボ 代表取締役)であった坪田 一男先生が大学発ベンチャーの奨励に尽力されており、坪田先生からこの研究についても「ベンチャー企業を作って育てていかないと、実用化に至らない」として設立されたのがレストアビジョンです。

 

 

パイプラインRV-001

峰尾:堅田様は御社が設立される前から、現在開発中のパイプラインであるRV-001に用いられている技術に携わられていたのですね。RV-001は網膜色素変性症をターゲットとされていると伺っています。その経緯とは、どのようなものなのでしょうか?

 

堅田様:網膜色素変性症は網膜の視細胞が障害され、失明に繋がってしまう難病です。日本では「指定難病」に認定されています。網膜色素変性症は、日本における視覚障害の原因疾患のうち緑内障に次いで2番目に多い(※1)疾患です。特に若い世代においては、失明の原因となる疾患第1位となっています(※2)。それでいて2023年8月現在、予防法も治療法も見つかっていません。そのため、患者さんは告知をされたら失明を待つことしかできない――。私自身も眼科医として、目の前に患者さんがいながら何もできない、何とかしてあげたい、という思いを持ちました。そのため、キメラロドプシン自体は他の失明疾患にも応用が利くものですが、まずは網膜色素変性症をターゲットにしました。

※1:2019年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 分担研究報告書「視覚身体障害者認定の実態疫学調査」より

※2:日本眼科学会雑誌「日本における視覚障害の原因と現状」(118:495-501,2014)より

 

峰尾:告知をされたら失明を待つだけというのは、非常に辛いですし、主治医としてももどかしいですね……。

 

堅田様:はい。実際に、来院される度に「何でもいいから治療法を見つけてほしい。自分を実験に使っていいから」と仰られる患者さんもいらっしゃいます。その度に「新しい治療法はまだ出ていないです」とお伝えするのは非常に辛いです。このことからも、一日でも早く、いい薬を患者さんに届けたいと昔も今もずっと考えています。

 

峰尾:なるほど。その思いが、御社のミッション「いち早く患者さんへ治療薬を届けることを最優先に」に繋がってくるのですね。では、その網膜色素変性症に対し、RV-001はどのように作用するのでしょうか?

 

堅田様:先ほどお伝えした通り、網膜色素変性症患者さんの網膜では、光を受容する視細胞が障害されています。そのため、光を受けても視細胞と視神経を繋ぐ介在細胞、視神経自体に情報が伝わらず、失明症状が現れています。

 

RV-001はキメラロドプシンを発現する遺伝子を包含したAAV(Adeno Associated Virus)ベクターを硝子体内に投与します。AAVベクターは介在細胞にその遺伝子を導入し、介在細胞にキメラロドプシンを発現させます。これにより、視細胞の代わりに介在細胞が光の受容によって活性化できるようにし、視神経へ情報を伝えるようにするのです。

 

また、網膜の細胞は生まれたときに作られた細胞を一生使い続けます。そのため、一度介在細胞に遺伝子が導入されてしまうと、ずっとその遺伝子からキメラロドプシンが発現するわけです。そのため、RV-001の投与回数も1回で済むと考えています。

 

峰尾:なるほど。効果としてはどのようなものが期待されているのでしょうか?

 

堅田様:物の像がモノクロで分かるくらいまで、視覚が再生すると考えています。具体的には「文字が読める」というのを目標にして開発を進めています。残念ながら、ロドプシンによって色を識別できるようになるまで視覚を回復することはできません。しかしながら、文字が読めるというのは生活に直結しますし、仕事ができるかどうかという点にも繋がってきます。そうした生活の質向上、社会復帰の面で、現状は色の識別などよりも優先と考えています。もちろん私としては、さらに研究を重ねて最終的に色だけでなく空間認識などの高次機能まで再生して、健康な方と同じレベルまで視機能を向上してあげたいというのが一番の願いです。

ベンチャーの苦難と魅力

峰尾:ありがとうございます。目標が具体的で効果がイメージしやすく、RV-001が非常に画期的なものであるということが良く分かりました。とはいえ、現在に至るまで、苦難もあったのではないでしょうか?

 

堅田様:はい。実際にいくつかの壁がありました。例えば、資金の面です。そもそも、国内だと創薬ベンチャーを支援できるベンチャーキャピタルというのは数が少ないです。加えて、話を持ち掛けたとしても、欧米ではむしろ主流のM&Aでの創薬ベンチャーの成功事例が国内には無く、我々としても将来的にどのくらいの売上が出るという説得材料が出せないという点で、なかなか投資を受けられませんでした。幸い、その中でも理解を示してくれたわずかなベンチャーキャピタルの方の理解が得られ、2022年2月にシードラウンド2023年6月に10.6億円の資金調達ができました。

 

また、認知度の面でも壁はありまして、人材採用といった点で苦労しています。実際に、慶應の名前を出して募集をかけるのと、レストアビジョン社の名前だけで募集をかけるのとでは引き合いが違います。採用については御社(inspire)にもご協力いただき、引き続き尽力していきたいと思います。

 

これら、資金や認知度はレストアビジョン社だけでなく、ベンチャーの辛さだと思います。

 

峰尾:一方で、ベンチャーならではの魅力はございますか?

 

堅田様:少数精鋭である点です。少数精鋭だからこそ、意思決定も素早く行うことができ、リスクが発生したとしてもすぐに対処ができます。そのため、会社として環境適応能力が高いのではないでしょうか。1社員という視点で見ても、裁量が大きく、業務を幅広く見渡すことができます。それに加え、経営層との距離感が近く、密にすり合わせを行いながら業務を進めていくことができるといったことも良い点だと思います。

 

大学発ベンチャーならではという点では、ベンチャー間同士のつながりが強いことも魅力だと思います。慶應大学にも医学部発ベンチャー協議会というものがありまして、お互い協力しあって、人材交流やノウハウ共有などを積極的に行っています。このように、自社だけでなく大学発ベンチャーのエコシステム全体を盛り上げていくことに関われるというのも非常に面白いですね。

 

峰尾:ありがとうございます。それでは最後に、御社は2023年9月現在、積極的に採用を行っていますね。ベンチャーへの転職を検討されている方へ、メッセージをお願い致します。

 

堅田様:レストアビジョン社では、我々と同じ思いを持っており、オーナーシップを発揮して業務に取り組んでいただける方を募集しております。ベンチャーは、業務に明確なやり方があったり、上司が常に細かな指示を出せたりといったことはなかなかありません。そのため、自分の業務に責任を持って、自分で考えて業務の進め方を決めていただく場面が多いです。

 

また、大手企業だからといって、長く続くとは限らない時代になってきました。そのため、自身にどのようなスキルを身に着けるか、自身がどのような経験をしていくか、ということが非常に重要になってきたと思います。そのことからもオーナーシップを発揮してさまざまな業務に携わっていくというマインドでは必要ではないでしょうか。この点において、少数精鋭のベンチャーは非常に良い環境だと思います。

 

創薬ベンチャーの支援は岸田 文雄首相が国を挙げて行っていますし、遺伝子治療分野はこれから間違いなく伸びる分野と考えております。弊社で経験することは、製薬業界でキャリアを積んでいく上で今後非常に役立つと思います。弊社の事業、弊社で得られる経験にご興味をお持ちの方は是非ご応募いただければと思います。

 

レストアビジョン社が本社を構える虎ノ門ヒルズビジネスタワー、レンタルオフィスCIC Tokyo内の共有スペース。業務の合間、一息つくための社員の憩いの場になっている。

 

 

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