1.「報告」とは
日常業務において、「報告」は頻繁に使用されるコミュニケーションです。「報告」が分かりやすく正確であることが、業務の効率化へも繋がります。実際に「報・連・相」の重要性などはよく耳にするところではないでしょうか。
では実際、報告とはどのようなコミュニケーションなのでしょうか。ここで報告の場面を思い浮かべてみましょう。
ある状況、事柄、結果等を詳しく知りたい人がいます。しかしその人はそのことを詳しく知ることが出来ない状況にいます。そこに別のもう一人がいて、その人はそれらについて詳しく知る立場の人だとします。詳しく知らない人は知る立場の人に説明を求めます。そして詳しく知る立場の人は、それらについて説明をします。これが「報告」です。
例えば業務報告とは、実際に業務を行った人がその内容について業務の責任者に報告することであり、出張報告は、出張した人が出張を任じた人にその内容を説明することであるように、直接状況等を知る人がそれを知るべき立場の人に詳しく説明すること、それが「報告」となります。
2.「報告」にとって重要なこととは
では、「報告」をするときに重要なこととはどのようなことでしょうか。それは以下の二つになります。
(1)求められている内容に答えているか
(2)正確性、正当性等が示されているか
まず、「求められている内容に答えているか」という点ですが、上記にもありますように、「報告」はその情報を知りたい人、或いは知るべき立場にある人に対して行うものであるので、知りたい或いは知るべき内容は、自ずと決まっているはずです。つまり、その知りたい内容に即して説明することこそが重要なのです。例えば、業務報告において業務の進捗を聞きたい上司には、進捗状況を報告すべきであり、その際の苦労話等は後回しにすべき内容でしょう。「報告」を受ける人が、結果、変化、状況、情報等、なにを求めているのかを把握して、それに答える形で「報告」を組み立てることが重要となります。
次に「正確性、正当性等が示されているか」という点についてです。「報告」を受ける人にとって、それは信用に値する情報であるのかということは非常に重要です。そもそも「報告」は、自分で見たり聞いたり判断できないものを別の人に依頼してその結果を聞くものですので、その内容に信憑性がなければ意味を成しません。報告者は自身の報告内容の信憑性を高めるために、正確性、正当性を示す必要があります。
3.「報告」を組み立てる
ではそれらの点に注意しながら、「報告」を組み立ててみましょう。
まず伝えるべきことは、求められている内容に対しての結論となります。名称を求められていたら名称を、状況を求められていたら状況を伝えます。同じ事柄についての「報告」であったとしても、求められていない内容については後回しにすべきです。例えば「結果」を「報告」すべき状況で「プロセス」から説明したり、「機能」を「報告」すべき状況で「外観」から説明を始めたり、このような形の「報告」は結論を分かり難くする可能性があります。しかし実際にはそのような「報告」も少なからず存在します。例えば、時系列で話を進めるとこのような形になり兼ねません。問われている内容を明確にし、まずその答えから話すようにしましょう。
次にその結論に至った理由を紹介します。「報告」の信憑性を高めるためには、なぜその結論に至ったかを説明する必要があります。そこで説得力のある理由を示すことで、「報告」としての正確性、正当性を高めていくことになります。ここで注意しなければならないことは、その結論に至った理由の数です。信憑性を高めるためにたくさん話したいところですが、聞き手からすると、たくさんの理由を示されると、かえって一つひとつの情報が入ってこなくなり、結局理解してもらえないリスクも増えます。理由は重要度の高い方から3つくらいにまとめて話すようにしましょう。その他の理由が存在する場合は、質問が出た時に対応する準備として大事にしまっておいてください。
理由が一言で説明が付く場合はそのあとにもう一度結論を話すだけでも良いのですが、理由そのものに説明が必要な場合や、理由の数が複数の場合は、理由の次にその理由に至った経緯を話すとより分かりやすい「報告」となります。なぜその理由に至ったのか、情報の出どころ、データ、思考のプロセス、具体例等を理由と合わせて紹介します。それらによって理由自体の信憑性を高め、結果として結論の信憑性も高めることになります。
そして最後にもう一度結論を伝えます。理由やその経緯を話したうえでの結論は、より説得力を増します。結果として自信をもって話せる内容になっているはずです。
また、報告時に併せて対策も求められることもありますが、その際、対策は必ず最後に伝えるようにしてください。基本的に「報告」はその信憑性を高めるため、公共性が高く事実ベースの情報が望ましいものです。しかし対策は、その状況から考えられる個人のアイディアや思考から生まれるものです。これらを一緒に話すことは、聞き手にとってどこまでが事実でどこからがアイディアなのかという点で混乱を招く可能性があります。対策は報告の後に行うようにしましょう。
まとめますと、結論→理由→経緯→結論→対策の順番で話します。そして重要なのは、結論>理由>経緯>対策であり、場合によっては結論だけで終わる場合もありますし、理由までで終わる場合もあります。説明の必要性や理由の数、対策の必要性等、状況によって伝えるべきところを選択してください。
4.記入例と解説
では実際に上記の方法に従って「報告」を組み立てていきましょう。
まず状況からご説明します。ある大学の薬学部において、新しい研究分野への参入について検討している最中、ドラッグリポジショニングという比較的新しい分野の研究紹介のシンポジウムが行われることになりました。そこで研究生が一人参加をして、その研究内容の可能性や大学で行う新たな研究分野としてふさわしいものかを報告してもらうこととなりました。
では実際の報告です。
「昨日『ドラッグリポジショニングシンポジウム』に参加して参りました。ドラッグリポジショニングとは既存の医薬品に新たな効能を見つけ実臨床に結び付ける研究のことです。結論と致しまして、この研究は大変有望であり是非とも当大学でも取り掛かりたい内容であると感じました。」 |
➡まずここでは、求められている内容を明確にしたうえで、その内容(ここでは、研究内容の可能性や大学で行う新たな研究分野としてふさわしいものか)に対する答えを結論として伝えています。
「なぜそのように感じたかというと、理由は3点ございます。 一つは非常に効率的な研究であるという点。 次に安全性に優れている研究であるという点。 そして最後に比較的簡易に横断的解析が体験できる研究であるという点です。」 |
➡ここでは、結論を明確にするための理由を述べています。今回は理由が3点あるため、まず箇条書き的に紹介し、この後でそれぞれ詳しく説明する形を取りました。
「まず効率的な研究であるという点ですが、薬学に限らず、医療や生物学等のビッグデータから既存薬とその反応について検索することで、そこから新たな効能に繋がるデータを見出すという点において効率的です。また従来の何もないところから基礎における物質の抽出や容量設定、安全性の確認等、様々な研究を進めることに比べても、研究結果が出ている既存の薬剤を扱うという点でもかなり効率的な研究であると言えます。このように費用、期間の両面において非常に効率的な研究であることがお分かりいただけると思います。詳しい内容は添付の発表内容資料にも記載されております。 次に安全性に優れているという点ですが、既に多数の臨床データが存在する既存薬からの研究となりますので、安全性は確認されており、リスクを冒す可能性も新規物質と比べて軽減致します。こちらも添付の発表内容資料でご確認いただけます。
最後に比較的簡易に横断的解析が体験できるという点につきましては、基礎研究から臨床研究、実臨床に至るまで、その段階ごとのスペシャリストをそろえることなく、データサイエンスとそれに必要となってくる解析技術を身につけることにより、基礎から臨床までの横断的な研究が可能となり多岐にわたる研究が可能となります。こちらにつきましても添付の発表内容資料でご確認いただけます」 |
➡ここでは、3つの理由に至った経緯について述べています。補足説明でより具体性を持たせ添付資料を付けることで、理由の出どころとなる考え方を明確にし、3つの理由に信憑性を持たせる内容になっています。
「以上の点から、ドラッグリポジショニング研究は当大学でも取り掛かるべき内容であると感じました。」 |
➡正当性を示したところでもう一度結論を述べています。
「ドラッグリポジショニング研究を実際に進めるためには、データサイエンスのスペシャリストを招聘し、各階層における解析技術を学ぶところからか始めるのは如何でしょうか。」 |
➡一通り報告を述べた後で対策について話し、報告と対策を分けて分かりやすくしています。
5. まとめ
如何でしたでしょうか。「報告」にとって重要な2点、
(1)求められている内容に答えているか
(2)正確性、正当性等が示されているか
を十分意識したうえで、結論→理由→経緯→結論→対策の順番で話を組み立てることで、明確で説得力のある「報告」を組み立てることが出来るようになります。みなさんもチャレンジしてみてください。
「報告」においては、相手が何を求めているのかを理解するところから始まるように、様々なコミュニケーションにおいて大切なのは、相手に対する理解と配慮です。これからも様々なコミュニケーションについて一緒に考えていきましょう。
筆者は当サイト(Medical Career Platform)におきまして、コーチとしてのキャリア相談、及びセミナーを開催いたしております。コーチとしてはコミュニケーション全般の他、リーダーシップ、チームビルディング、製薬業界におけるセリングスキル等、製薬業界での経験を活かした内容のものも行っております。セミナーはコミュニケーションに関する内容となっておりますので、詳しくは、私のプロフィールページからご検索ください。
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■執筆者 大野裕之
大学卒業後、製薬会社に入社。当初医薬情報担当者として勤務し、主に大学病院、地域基幹病院等を担当、その後営業マネジャー職を経て本社営業推進に移動。社内コーチングシステム立ち上げプロジェクトに加わりコーチングと出会う。プロジェクト完了後、初代社内コーチの一員として活動を始める。その際営業スキル研修等の研修コンテンツの作成に携わり、後に全国の支店で研修を実施し、その普及に努める。退職後コーチングの資格を取りプロコーチとして独立。現在はフリーランスでリーダーシップコーチ、エグゼクティブコーチ、研修講師、セミナー講師として活動。
※資格等
・(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ
・ACTP修了(株式会社コーチエィ認定)
・T3プロフェッショナルインストラクター修了(ウィルソン・ラーニングワールドワイド株式会社認定)
・プロジェクトプラニング修了((株)PMコンセプツ認定)