コラム
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2024-01-25 17:50

「原因側に立つ」:キャリアの舵を自分で握り、未来へ進む

「原因側に立つ」:キャリアの舵を自分で握り、未来へ進む
自身の人生を運に委ねず、自身でコントロールし、自分が欲しい結果(未来)を手にするための、心理学(NLP)に基づく持つべきマインドと考え方を紹介します。

1.人生を変えたメンターとの出会い

私は防衛医科大学校卒業なので、卒業後は自衛官の健康管理が主な任務でした。当時は自衛隊病院の診療対象は自衛官とその家族のみを対象であったため患者数は少なく、しかも、多くの卒業生は自衛隊基地や駐屯地の医務室勤務がほとんどで、卒業生がどのように臨床経験を積むかが課題でした。9年間=108か月の義務年限を仏教の煩悩の数にかけて、9年間の義務年限を終えると、「煩悩も消えるが、医師としての能力も消える」と言われていました。

そして、私が専攻したのは小児科学でしたので、臨床経験が積むことはほぼ絶望的でした。しかも、私は卒業後2年間の初任実務研修修了後は山口県萩市沖45kmの日本海の孤島“見島”にある隊員数170名の航空自衛隊見島分屯基地の医務室に勤務することとなりました。診療対象は離島に勤務するような自衛官ですので、基本的に皆さん健康です。医務室の受診者数は多くて1日5名程度、まったく受診者がいない日もありました。ここに勤務して来た歴代の先輩たちは、離島勤務の1年間は自分の臨床経験を積むことを諦めて、離島生活を楽しむことに専念してきたようでした。

私が幸運だったのは、自治医科大学卒業で私より5学年上の萩市立見島診療所のM先生と出逢ったことです。私は1年間で身につけられることは、何でも身につけようと思い、見島診療所でM先生の診療を週に1回見学させて貰うことにしたのです。自治医科大学は、防衛医科大学校同様に学費は無料で9年間の義務年限があり、へき地医療貢献の義務が課されています。M先生は2年間の予定で診療所に山口県から派遣されており、すでに1年間が経過したところでした。M先生のご専門は皮膚科で、島の人口は1200人であることから考えると皮膚科の臨床技術を磨くほどの症例はないはずです。しかし、M先生は島の患者さんで皮膚科の症例報告の論文投稿をしていたり、皮膚がんの手術をされたりと、正にリアルDr.コトーさながらの診療と研究をされていたのです。

M先生とは島を出てからも仲良くさせて頂いており、今年も横浜に学会で来られたM先生と10年ぶりにお会いしました。私に医師としての姿勢を背中で教えてくださったメンターのような先生です。

 

2.今できることを今いる場所で全力でやる

私はM先生に感化され、自衛隊医務室や離島という制約を言い訳にするのではなく、医務室に来る数少ない患者さんから学ぶことはないかと考えるようになりました。まず、私が目を付けたのがエコー検査です。離島勤務する自衛官は飲酒量が多く、健康診断で肝機能障害が指摘されることが多いのです。健康診断で異常が指摘されると、隊員を医務室に呼び出して面接をするのですが、そこでエコーをさせて貰うことにしました。最初は教科書を見ながら、緊張で汗だくになって30分近くかけて検査をさせて貰いましたが、自衛官からすると一生懸命診てくれると好評でした。また、大学の先生から論文や学会発表のお誘いは断らずにすべて引き受けることにしました。そして、半年かけて、見島分屯基地医務室に医師が勤務することが決まった経緯とこれまでの医務室の状況をまとめ上げて、月に1回島外へ臨床研修に行かせてほしいという上申書を作り、防衛庁(当時)航空幕僚監部へ提出しました。結局、島外への研修はオフィシャルには認められなかったのですが、当時の基地司令のご配慮で“訓練”という形で2か月に1回島外へ研修に行かせて頂けることになりました。

卒後3年目という他大学卒業生が臨床技術や知識の修得もっとも熱を入れている貴重な時期に離島勤務になるということは医師として大成するためには致命的、と赴任前は考えていました。しかし、むしろ、この時の経験がその後の自分の医師としての在り方を決定づけたように思います。今自分がいる場所で何ができるか? を常に考えて行動することで、診療技術を磨いた結果、現在、私のもとには日本全国どころか、海外からも患者さんに来て頂けるようになりました。国内、国外で講演をさせて頂く機会も得られるようになり、教科書執筆やガイドライン作成などにも関わらせて頂くなど、見島時代には想像もつかなかったところに現在の私はいます。

 

3.「原因側に立つ」という考え方

さて、私は、2019年、49歳から神経言語プログラミング(Neuro Linguistic Programming: NLP)という20世紀後半に米国で開発された実践心理学を学び始めました。NLPは、我々の脳に過去の体験などを通して形成されたプログラムに基づく人間の思考や行動のパターンを理解し、変容するための心理学です。そして、NLPでは、自分の脳のプログラムを書き換えることで思考や行動のパターンを変えることが出来るのです。そして、NLPでは「原因側に立つ」という考え方があります。「原因側に立つ」の正反対が「結果側に立つ」です。

我々の目の前で今、起こっている出来事には、必ずそれを引き起こす原因が過去にあります。過去の何らか原因が、今現在、起こっている出来事という結果につながっている訳です。「結果側に立つ」人とは、今、現在の出来事という結果を受動的に受け取るだけの人です。例えば、道路に大きなくぼみがあって転んでしまったとします。「道路のくぼみ」という原因が、「転ぶ」という結果を起こしたのです。結果側に立っている人は、「道路のくぼみが原因だ!」、「補修工事をしない行政が悪い!」などと自分が転んだという結果を作り出した原因を責めます。確かに、そこにくぼみなければ転ばなかったので、補修工事をしなかった行政に責任はあるのかもしれません。

しかし、よく考えると道路にくぼみがあっても転ばない人もいます。たまたま、くぼみの部分に足が引っかからなかったからかもしれませんが、「原因側に立つ」人は、転ばないように地面を見て注意しながら歩いたり、歩き方を工夫してしたり、以前、同じ場所で転んだことが覚えており、くぼみをよけたりします。「原因側に立つ」人は、何らかの方法で道路のくぼみを回避するという原因を自分でつくって、「転ばずに安全に歩く」という結果を手に入れているのです。これが「原因側に立つ」人の考え方と行動パターンです。

行政が道路を補修して道路を平らにしても、「結果側に立つ」人は別の場所できっと転んでしまい、また、同じように転んだ原因を責め立てるでしょう。それが「結果側に立つ」人の考え方と行動パターンです。

結果とは、「ある原因や行為から生じた、結末や状態」を指します。「結果側に立つ」人の思考と行動のパターンは、いつも受動的で、自分から動こうとしません。自分にとってマイナスの「結果」は他者がひきおこしたことものとして捉え、そのため自分を被害者の立場に固定して、他者である誰かを自分に害を加える加害者に仕立て上げて、自分はかわいそうな人として振舞います。今ある自分の状況は変えられないもの、仕方のないものと考えます。自分の境遇と他の人の境遇を比べて、ひがんだり、妬んだりします。「結果側に立つ」人の多くは、箱の中に閉じこもり、箱に空いた小さな小窓からしか世界を見ていないので、自分がこのような状態だと気づいていません。

原因とは、「ある物事や、ある状態・変化を引き起こすもとになること」を指します。「原因側に立つ」人の思考と行動のパターンは、自分が望む状況を引き起こす原因を自分で作り出すため主体的に行動します。自分が欲しい結果を手に入れるためには何ができるか、すなわちその結果を導き出す原因となりうるものは何かを常に考えています。目の前に困難が立ちはだかっても、今の自分に何ができるかを考え、自分に足りないところは周りの人に協力を仰ぎながら克服します。仮に失敗しても、この失敗から何が学べるかと考えます。広い視野と多くの視点を求めて、自ら行動します。今いる自分の環境でできることは何か? と、できない理由を集めて悩むより出来る方法を模索します。そして、今いる環境で一生懸命やっていることが、確実に自分の未来をより良くしています。不思議なことに原因側に立っている人の周りには、その人のビジョン、夢、価値観などに共鳴して助けてくれる人がたくさん集まってきます。そして、原因側に立つ人はその人たちへの感謝を決して忘れません。

さあ、ここまで読まれて、あなた自身は原因側と結果側のどちらに立っていると思いましたか? 勿論、普段は原因側に立っている人が、ときに結果側に立ってしまうこともあると思います。私自身も自分の人生を振り返ってみると、結果側に立っていたことがあります。大切なことは、自分が今、どちら側に立っているかに気づけることです。そして、結果側に立っていると気づいたら、スイッチを切り替えて原因側に移動できることです。

職場環境、待遇、上司からの評価、部下や同僚との関係性などなど、納得のいかないこと、不平や不満もあるかもしれません。場合によっては、それが原因で退職、転職を考えている人もいるかもしれません。

そのときに結果側に立って不平、不満、愚痴、妬み、嫉み、恨み、つらみを口にして、被害者で終わるのか?

それとも原因側に立って、今、自分の目の前にある課題や問題を解決するためには何が出来るか、自分の役割、責任をどのように全うするのかについて模索し、何をすべきかについて考え、そして行動するのか?

どちらが自分の未来を自分が望むものに変えてくれる可能性があるのかについて、是非、考えてほしいと思います。

 

4.目の前のチャンスに気づけるか?

 「結果側に立つ」人は、現在の自分が置かれた“不幸な状況”を作り出した原因(過去)に意識が向いているので、自分が欲しい結果(未来)を作り出すチャンスが、今(現在)、目の前にあっても気づけません。

一方で、「原因側に立つ」人は、自分が欲しい結果(未来)を手にするために、今(現在)、何ができるかを考えていますので、意識は未来と現在に向いています。今(現在)、何ができるか、それが自分の欲しい結果(未来)にどのように繋がるかを考えて、常にアンテナを立てているので、“チャンスの種”と呼べるような小さなチャンスにも反応します。ときに本人が“チャンスの種”だと認識せずに、それを手にしている事すらあります。

私が、毎日の患者が5人にも満たない離島へ派遣されたとき、結果側に立っていたら、自分の不遇を嘆きながら、1年間をぐうたらに過ごしたでしょう。M先生という人生を変えたメンターに出会っても、その意味や価値にすら気づかずに見島診療所へ研修に行くこともなかったでしょう。見島分基地に勤務する170人の隊員たちに協力してもらいながら、エコー診断技術を磨くこともなかったでしょう。

私が小さな離島の来院患者数1日5人未満の医務室でできることを考え、島外へ研修する方法を模索し、そして、「今できることは何か」に意識を向け続けて今に至るのは、M先生の在り方から「原因側に立つ」ということを学んだからだと思います。

もしも、このコラムを読んで、「自分は結果側に立っている」と思った方は、自分に問いかけてください。

「自分で結果を変えられる可能性があった原因は何だろう?」

「今、自分ができることは何だろう?」

この2つの質問を常に自分に問いかけるようにしてみましょう。きっと結果は変わるはずです。

 

■執筆者:十河剛(そごう つよし)

済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長。1995年防衛医科大学校医学科卒。卒業後、自衛隊での医官としての勤務を経て、2003年から国際医療福祉大学小児科医員として小児消化器疾患の診療を始める。2006年横浜栄共済病院医員、2007年済生会横浜市東部病院こどもセンター医長、2013年より現職。2012年より横浜市立大学医学部非常勤講師、2019年より防衛医科大学校小児科学講座非常勤講師を兼務。2019年より本格的にNLPコーチングを学び始め、2020年3月、米国NLP&コーチング研究所認定NLP上級プロフェッショナルコーチの資格を取得、2022年11月に、一般社団法人日本メディカルNLP&コーチング協会を設立。また、幼少時より武道の修行を続けており、現在は躰道七段教士、合気道二段、剣道二段であり、子供達や学生に指導を行っている。

*専門:小児肝臓・消化器疾患、小児消化器内視鏡、NLP、コーチング

 

 

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