CRO出身転職コンサルタントによる、CRAの職務経歴書の書き方のコツ

CRA(臨床開発モニター)業界に関するコラム/記事一覧 転職のコツ 2021.10.01

CRO出身転職コンサルタントによる、CRAの職務経歴書の書き方のコツ

CRAが陥りがちなNG職務経歴書

多くのCRAの転職をお手伝いしていて、
「職務経歴書の書き方がわからないので、ネットで入手したテンプレートをそのまま使いました。ただ、これでいいのかなあと思いまして…」
という相談をよく受けます。
 大抵、こうした転職者の職務経歴書を見ると、下記のNGサンプルのように、CROのサービス内容のような経歴書になってしまっています。

この経歴書、何がダメかわかるでしょうか?
ダメな点は、一つや二つではないです。
以下の記事で、そもそも経歴書がどうあるべきかを論じながら、CRA固有の経歴書の書き方を説明していきます。


職務経歴書作成に当たって考えるべき事項

 職務経歴書の作成にあたって、CRAに限らず多くの方が、


①自分自身のアピールできる強みをひたすらアピールする

②単なる経験業務の羅列

③上記①と②のハイブリッド
のどれかになりがちです。

このような職務経歴書は、もっともベースになるはずの「職務経歴詳細」に書かれていない経験やスキルを根拠にした「自己PR」が中心になっています。
例えば、営業の方の「職務経歴詳細」で、業務の内容と、頻回訪問での大口顧客の獲得・売上拡大しか書いていないのに、「自己PR」には突然「データ分析力」の記載がある、といった感じです。
そもそも、職務経歴書作成にあたって、考えるべき事項を整理できていないと、行き当たりばったりで書き出し、自己アピールにならないどころか、内容が矛盾のあるものになりがちです。
では、どんなことを考えるべきでしょうか。


その大枠は以下です。

1. (転職活動における)職務経歴書作成の目的

2. 職務経歴書全体の構成

3. 個々のコンテンツ ~職務内容やスキル・資格等~

4. 体裁、表現

5. 量

今回は一般論を述べたいわけではないので、 「1.転職活動における職務経歴書(作成)の目的」と、特に職種によって違いが出る、すなわちCRA固有の話になる 「3.個々のコンテンツ~職務内容やスキル・資格等~」について重点的に説明します。

「1.(転職活動における)職務経歴書作成の目的」

転職活動における職務経歴書作成の目的を厳密に考えると何になるでしょうか?
「自身の経験やスキルを伝える」
「自己PR」
といった回答が多いかと思います。
これはこれで大枠間違いではないのですが、それだけでは足りないのです。

 

「転職活動における」職務経歴書作成の目的は以下です。
①採用企業に、自身の経歴・経験やスキル、仕事や組織に対する自身の考え方などの全体像を把握してもらう
②採用企業/採用ポジションに自身がマッチすることを伝える
③上記①②を通じて、採用企業に会って直接話してみたいと思ってもらう

肝は当然②です。

しかし(CRAに限らず)多くの求職者は、自分の絶対的な強みばかりをアピールし、その採用ポジションで求められるものに自分がどう合致するかをアピールしていない方が多いというのが現状です。

 採用要件含め求人票はしっかりと見て、応募する職種や業種/会社が何を求めているかをしっかり把握しておかないと、職務経歴書を作成する目的が漠然としてしまい、①は満たせても、②を満たせず、結果的に③につながらないということになりがちです。

5W1Hで言えば、whatばかり考えて、そもそものwhyを考えることができていないという状況です。

ちなみに、同じCRAでもCROとファーマでは、実は選考の観点が微妙に違います。

長くなるのでここでは簡単に述べますが、観点の違いが出る要因の一つは、一般的にはファーマはCROに比し、よりサイエンスの観点や承認取得という大きなゴールから人材を見ているという点が挙げられます。CROでの経験のみでファーマに応募し見送りとなった方の多くは、この違いを理解しておらず、

「GCPを遵守してモニタリングができる」

「医師やCRCの要望にタイムリーに応え、信頼関係を構築し、症例を入れていただくことができた」

といったオペレーショナルなアピールをしてしまっていることが多いです。

結局、経歴書を作成する目的が曖昧なので、応募する職種や業種/会社が何を求めているかをしっかり把握するという作業をあまり行わなかった結果だと思います。

 なお、「1.(転職活動における)職務経歴書作成の目的」とカッコ書きがあることには意味があります。そもそも転職活動に関係なく職務経歴書を作成することは大切なのですが、それは後述します。

 

*GCP=Good Clinical Practiceの略称。薬事法に基づき、医薬品の治験を行う際に企業や医療機関が守るべき基準を厚生労働省が法律で義務付けている、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のこと。この規則は国際的に認められているルールである。

*CRC=Clinical Research Coordinatorの略称。治験コーディネーターとも呼ばれている。治験がスムーズに行われるように、医療機関と製薬会社、被験者の間に立ち、スケジュールの管理や補助、被験者のサポートなど治験の業務全般をする。 




「3.個々のコンテンツ」

 さて、目的の設定(=why)の重要性を理解したら、次は「3.個々のコンテンツ」について述べます。

5W1Hで言えば、「what」にあたります。

端的に言えば、「1.(転職活動における)職務経歴書(作成)の目的」に紐づきますが、一般的に企業は採用の際、どういう人を取りたいか? を考え、そこからどんなコンテンツとしていくかを考えていく必要があります。

 では、企業はどういう人を取りたいでしょうか?

 それは、実は簡単で「成果を出せる人」です。

 例外もありますが、一般的に、採用側はより高い成果を出せる人を求めています。極端な話、成果を確実に出せる人であれば、その職種の経験はなくてもよいのです。

 ただ、一般的には、その職種の経験があった方が成果を出すということの再現性は高いので、経験者採用が多くはなっていますが。

 

 では、CRAが創出すべき成果とは何でしょうか。

「医療機関と信頼関係を構築すること?」
「医療機関との契約をつつがなく締結に持っていけること?」
「きちんとモニタリングできること?」

などでしょうか。
そうではないですね(あるいは表現としての厳密性が足りないですね)。

きちんと考えれば、
「自身の目標症例数に対し、期待された品質で、期限内に必要症例の登録を行い、かつデータロックを達成すること」
であるはずです。

 

そうすると、上記のNGサンプルがいかにダメなコンテンツかがわかるはずです。

成果を出したかどうかが書いておらず、そもそも成果を出したかどうかの基準となる自身の目標値さえ書いていません。

これもよくあるNG例なのですが、
「症例獲得業務に注力し、試験全体の症例獲得促進に貢献した」

といった表記です。

「貢献した」という言葉の響きはいいのですが、あまりにも実態がありません。
そもそも自身の目標症例数を達成したかどうかもわからないのに、試験全体に貢献したってどういうことなのだろう?と思ってしまいます。

そのため、まずは自分の持った目標値を明記し、その目標を超えたかどうかをしっかり書きましょう。

ちなみにここまでは、「目標症例数」という量やタイムラインのアピールとなります。

では、CRAとしての質はどんなコンテンツでアピールできるでしょうか?
わかりやすいものでは自身の施設に監査などが入り、(クリティカルな)指摘がなかったというものです。その他、CRFに対するクエリー数がチームのなかで少なかったなどもあるでしょう。

そのうえで、一CRAの役割を超えて、プロジェクト全体の仕事(リーダーのサポート、後輩の育成)などプラスαの経験・実績があれば、明確に切り分けて記載・アピールすると、読み手は理解しやすいですね。

次に実績としての成果ですが、これは再現性があることをアピールすることが重要です。

面接で「なぜそのような成果を出せたのですか?」と聞かれ、
「治験に積極的な良い施設を担当させてもらえました」
「とにかく足しげく通って、医師やCRCに熱意を理解してもらいました」

という回答では、治験に積極的でない施設を担当した場合や、頻回のアポイントを嫌がる医師やCRCだった場合、「再現性がない」という評価になってしまいます。

したがって、周りの環境が変わっても発揮される、自分自身の工夫(≒コンピテンシー:成果につながる行動特性)を書き、

「そういうコンピテンシーがあれば、弊社でも再現性高く成果を出してくれそう」
と理解してもらわなければなりません。

コンピテンシー(competency)とは?

英語の辞書的な意味では、「能力」「有能」「適性」などを意味します。これがビジネスの世界では、社員に見られる成果につながる行動特性という意味で使われます。周りの環境が変わっても、自分の持っている能力や身につけた専門的な知識を、行動に移す力も指します。
また、人材教育・育成や人材採用・人事評価などでも用いられています。

まとめると、成果とは量と質であり、できるかぎりこの2つを定量的に記載した経歴書が好ましいということになります。

さらに、その成果を出すための工夫を具体的に記載することで、環境が変わっても「成果を出す行動を取れる人材」であることを伝えるといいですね。



その他表現、文章量等


さてここまで内容面をご説明してきましたが、表現についても簡単に触れておきます。

経験業務内容の表記は、応募先がCROやファーマであれば、「医療機関調査~終了手続き」で十分理解してもらえます。そういう意味で「※経歴書のNGサンプル」は、細かく業務を羅列し過ぎです。これは読み手の立場で言えば、無意味に長い内容を無意味に繰り返し読まされることとなり、良い表現とは言えません。

こうやって不要な文章を削り、その分成果や成果を出すためのコンピテンシー(行動特性)を厚めに書いた方が、読み手に親切な経歴書になります。

職務経歴書の本質論

 経歴書作成の相談で、よく聞かれるのが、「どう書けばいいのですか?」

というものです。強者になると、「大した経験をしていないのですが、どう書けば書類が通過しますか?」とご相談されてくる方もいらっしゃいます。

そういうつもりではないのでしょうが、しっかりした中身がないものを包装紙で繕って採用企業に推薦してほしい、書類選考通過をなんとかしろと言われているようで、なかなかに戸惑います。

 こういう求職者の方々とお話をしていて思うのは、表面的な表現でなんとかしようとするのではなく、経験の棚卸を徹底的に行い、自身の「中身」をしっかりと見える化してほしいな、ということです。そのなかで磨けば光るものを見いだし、徹底的に磨く(=良い表現にする)というステップを踏まなければなりません。

中身さえあれば、表現はなんとでもできます。

しかし中身をピックアップできていなければ、表現ではなんともしようがないのです。


 このようにご説明すると、
「棚卸を行って、何も出てこなかったら?」

という質問が聞こえてきます。

その場合は簡単です。

すぐに転職せず、現職で「中身」を作るような仕事をして、実績を出すのです(もちろん、転職理由が会社の業績悪化や転居など、経験やスキルと関係ない理由であれば別です)。

そして、徹底的な経験の棚卸からはじめるような経歴書作成を行うと、自身に何が不足しているか、経験がどう偏っているかなどが見えてきます。

そうすると、そこから自身のスキルアップやキャリアアップのために何をすべきかが明らかになってきます。

ここまでくれば、会社/組織に頼るのではなく、能動的にスキルアップやキャリアアップのためのアクションを開始するきっかけにできるはずです。

過去は変えられませんが、過去の棚卸は未来への糧にでき、転職するかどうかだけでなく自身が中長期的にどうなりたいか、何をすべきかが明確になります。

 そういう意味では、転職を考えていなくても年に1回は経歴書の更新をしてほしいですね。

自身の経験の棚卸を行い、この1年でどれだけ成長できたか、できなかったかを振り返り、次の1年どうしていくかを考えるというPDCAを回していただきたいと思います。

それが実は、「1.(転職活動における)職務経歴書作成の目的」にカッコ書きがあることの理由です。

すなわち、転職活動に関係なく、職務経歴書の作成(・更新)を定期的に行うことは、ご自身のスキルアップ・キャリアアップにとって大きな意味があるということです。

そうやってしっかりした中身を作っていけば、目の前の転職に有利といったレベルではなく、中長的なキャリア構築に資するはずです。


補足 異業種に転職する場合

異業種に転職する場合のご相談もよく受けます。

そういった場合、そもそも応募先の人事や採用部門担当者がCRAのことをよく知りません。
そのため、上記NGサンプルのようにCRAとしての細かい経験を書いても意味はありません。
意味がないどころか、「専門用語を振りかざし、相手への配慮のない人」というマイナスの印象を与えかねません。

したがって、極端な話、医薬に全く関りのない人に、「CRAというのはどういう役割で、どういうことをしているのかを説明する」ような表現にする必要があります。

このように応募先が大きく変われば、経歴書(作成)の目的も大きく変わります。
そのため、やはり「目的」を厳密に考えることが、非常に重要であり、まずそこを考えてほしいということになります。

とにかく、CRAというのは、製薬業界の一歩外に出れば、相当にニッチな職業なので、その意識を持ってほしいですね。


終わりに:経歴書を中長期のキャリア開発に役立てる

 色々と書きましたが、転職活動における職務経歴書の作成に関し、結局何が言いたいのかというと、

 

(1)転職活動での職務経歴書作成の目的をきちんと理解し、意識する
(2)応募企業/ポジションが何を求めているのかをきちんと理解する
(3)上記2にマッチした自己アピールを選択し、強調する

ことが大切だということです。

 逆に言えば、応募先のニーズに関係なく自身の強み押しばかりに陥らないようにしてください。

 

その過程で、現時点で中身(職務経験、知識・スキル等)では勝負できないことがわかったら、それは職務経歴書の作り方や表現の問題ではなく、中身をブラッシュアップする必要があるということです。

ぜひ、経歴書作成を単なる転職ツールとしてではなく、自身のキャリア全体を考えるためのツールとして作る・使うことをお勧めします。

転職を考えている方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

CRA経験者向け経歴書作成セミナーは以下↓

開催情報

inspire株式会社
代表取締役 吉原 貴

       


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