メビックス株式会社 インタビュー 第1回 CRAに知ってほしい、育薬における臨床研究の本質的な意義 ~治験データと臨床実態のギャップを埋める~

CRA(臨床開発モニター)業界に関するコラム/記事一覧 業界情報 メビックス株式会社 メディカル業界の企業インタビュー 2021.10.29

臨床研究専門のCROであるメビックス株式会社(以下、メビックス)。この領域では国内No.1の実績を誇るCROだ。

しかし、特に企業治験のCRAの方々には、その「臨床研究」について十分に知られてないという実態がある。そこで今回、その「臨床研究とは」というところから、お話をいただいた。

治験だけでは、臨床実態下での使用に耐えうるデータがそろっていないことが多く、その不足するエビデンスを確立することで、真に患者さんの役に立つ医薬品に育てていく「育薬」と、その「育薬」のなかで大きな役割を占める「臨床研究」について、わかりやすくご説明いただいたので、ぜひお読みいただきたい。

なお、メビックスには下記の3回シリーズでお話を伺うこととなっており、今回はその第1回目となる。 

第1回 CRAに知ってほしい、育薬における臨床研究の本質的な意義 ~治験データと臨床実態のギャップを埋める~
第2回 臨床研究分野におけるメビックスの取り組み
第3回 メビックスでの臨床研究CRAの採用について





Ⅰ.臨床研究の本質的な目的と意義 ~治験データと臨床実態のギャップを埋める~


インタビュイー:村林 裕貴 様
メビックス株式会社 執行役員 研究推進本部長 研究統括責任者

内資系製薬企業で臨床開発職を経験し、企業治験を主体としている CROへ転職。リーダーおよびマネジメントを経験した後、2015年にメビックス株式会社へ転職。以降、プロジェクトマネジャー、教育責任者等の役割を経て2020年から現職。
インタビュアー:吉原 貴
inspire株式会社 代表取締役、CRA Career Platform編集長
大手人材派遣会社での製薬関連新規事業立ち上げ、CROでのビジネスディベロップメント・人事・経営企画、経営コンサルティング会社でのコンサルタント・経営管理全般、メディカル専門の人材紹介会社等を経て、2017年にinspire㈱を立ち上げ、メディカル専門の人材紹介事業を運営。
CRO出身の業界に精通したキャリアコンサルタントとして、CRAの転職も多数の実績を持つ。

*インタビュー実施日:2021年9月21日

市場が拡大する臨床研究に特化したCRO


吉原:本日はお時間を頂き、ありがとうございます。
さて、本来御社のCRAの採用についてお伺いしたいところなのですが、CRAの方々がそもそも「臨床研究とは?」という状態なのが実態です。ですので「臨床研究とは?」いう基本的なところからお話を聞かせていただきたいと思います。
本日のお話を踏まえ、2回目に御社の特長、そして3回目にやっと御社の臨床研究CRAの採用について伺うという、壮大な3回シリーズということで(笑)。
まず、村林様のご経歴をお伺いしてよろしいでしょうか?
村林:私は修士卒で、その後内資製薬会社に入社し、そこで臨床開発職を計8年経験しました。CRAに始まり、治験のプランニングや薬事関連の業務にも関与しており、8年間、治験中心に臨床開発にどっぷり浸からせていただいていました。
その後、企業治験を主体としているCROに転職をして2年間、マネジメントをしました。
そのうえで、当社に転職して6年半となります。
吉原:ありがとうございます。そうすると今回の趣旨である、CRAの方々に治験と臨床研究の違いや、それぞれの良いところをお伺いするのにはぴったりということですね。
村林:そうですね。かなり具体的にはお話できると思います。
吉原:臨床研究のお話をお伺いする前に簡単に御社のことをお聞かせください。会社名は業界のなかではある程度認知されてきたのかなと感じるのですが、一方で臨床研究についてはあまり理解されていないというのが率直なところです。
ですので、御社の特徴は十分知られていないと思いますので、御社がどういったことにフォーカスされているか、どういった特徴のある会社なのかを簡単に教えていただけますでしょうか。
村林:まず臨床研究に特化しているというのは当社の強みでもあると思います。やはり臨床研究は臨床研究ならではのレギュレーションがあり、臨床研究固有に必要な支援があると思っています。
治験では承認申請を目的に試験を行うわけですが、企業治験を主体としているCROは、製薬会社が主体となって行うなかで、その一部を支援するというのが一般的かと思います。
一方で臨床研究は、医療機関/アカデミアの医師が主導して進めていくものなので、製薬会社としての介入にはある程度の制限が設けられてしまいます。なぜならば、製薬会社が必要以上に介入すると、自社製品をより多く売りたいという思惑と、臨床研究として客観的なエビデンスを取るという目的とがコンフリクトしてしまう懸念があるためです。
ただ、臨床/アカデミアの医師は臨床研究の専門家ではない場合が少なくないこと、また臨床研究を行うための十分なリソースをお持ちでないことなどから、当社のようなCROへの依頼が発生します。そのため、CROとしての支援をご依頼いただくと、当社がより主体的にその臨床研究をリードしていくことが、企業治験の支援に比し、強く求められます。そういった支援に特化しているというのが我々の特徴であり、そういった実績から裏付けられる支援の幅の広さと質の高さが当社の強みとなっています。
吉原:臨床研究に特化されており、企業治験を主体としているCROに比べ、御社がある意味でリードを取る形で、試験のプランニングから遂行までを支援しているということですね。
村林:おっしゃる通りでして、私は企業治験を主体としているCROにもいましたけれど、モニタリングが中心であるということ、承認申請に耐えうる試験データを残せるように、医師とのコミュニケーションを円滑にしていくということが主な目的でした。それに対し、当社のCROとしての臨床研究への関りは、プランニングからパブリケーションまでの全体を一貫して一つの会社で行うことによって、研究責任医師とのコミュニケーションが一貫して行われる、期間短縮の工夫の余地が大きいなど、試験への関与の深さと広さは、臨床研究と治験の違う部分だと認識しています。
ですので、CRAもモニタリングをするだけでなく、幅広く試験に関わることができるメリットを感じられると思います。
吉原:それは、企業治験を主体としているCROとは大きく違いますね。
ところで、臨床研究法(*1)ができて以降、日本の臨床研究は確実に質・量とも上向きなのかなと思うのですが御社の事業の状況はいかがでしょうか?
村林:臨床研究法は2018年4月1日に施行されたのですが、当社では、それに先立つ2017年末に特定臨床研究オペレーション室を立ち上げました。
それは臨床研究に特化しているという我々のそもそものコンセプトから、他社に先立って臨床研究法に基づくこと、なかでも特に特定臨床研究(*2)の支援に力を入れていくという意気込みの表明であったわけです。
その組織をキックオフしたことによって、関連する情報、ノウハウ等を蓄積し、そのことで支援の質を高めてきました。その結果、顧客から「こういう時どうするのですか?」という相談を非常に多く受けるようになりました。なかには、個々の医療機関/アカデミア、さらには学会としてのご相談もいただきます。そういった際、先方の窓口となる臨床研究に関わる医師の方々とのコミュニケーションも特定臨床研究オペレーション室でやっておりますので、臨床研究法に基づく臨床研究の進め方について、我々のなかに情報が蓄積されていって支援に役立てることができているという自負はあります。
多数の臨床研究を受託し、遂行するなかで、臨床研究法への対応のナレッジを蓄積して、次の支援に活かしていくということが今、できています。
吉原:そうすると受注数や業績はかなり上がりましたか?
村林:特定臨床研究だけで伸びているわけではないですが、受注状況でいうと試験数で、3年前に比し、おおよそ3割は伸びています。当然、それに比例して売り上げも順調に伸びています。
吉原:日本CRO協会の発表(*3)によると、「2020年の会員会社の総売上高は2019年より83.3億円(1,949.9億円→1,866.6億円)4.3%減少した。」とのことです。そのなかで受注が3割増えているというのは相当すごいですね。
村林:特に企業治験はいま頭打ち状態になっていることは間違いなくて、モニタリング業務の案件数はなかなか伸びない状況です。そのうえ、Covidの影響でリモートでのモニタリングがある程度受け入れられてきたことで、
「実はモニタリングに人的リソースをかけなくてすむのでは?」
ということになってきています。これらのことを考えると、今後企業治験のモニタリング業務を受託するという事業が伸びていくということは、なかなか難しいと思います。
一方で、製薬会社は、メディカルアフェアーズ活動に力を入れており、その結果臨床研究にも力を入れるという状況があります。また、臨床研究の目的に応じて、従来のように対象患者を前向きに診察/観察する研究だけでなく、医療データベースの利用、患者からの直接のアウトカムを収集する研究など、様々な臨床研究がおこなわれています。
そして少し述べたように、オペレーションだけでなく、試験のデザインからご相談いただくことも多く、CROとしては今後まだまだ市場は拡大すると考えています。
吉原:そうすると今、臨床研究のCRA採用枠がかなりあるという状況ですか?
村林:はい!
また、当社はモニタリングをすることだけにフォーカスせず、プランニングからパブリケーションまで積極的に対応します。そして、どのステージでも今引き合いが増えている一方で、CRA含め、相談案件数に対し十分なリソースを確保できておらず、やむなくどの試験であればご支援できるのかと日々考えている状況です。
ですので、CRAを中心に、データマネジメントや統計の担当者含め、多数募集しています。
吉原:本当に業績は好調のようですね。御社の採用状況は第3回目で、ぜひ詳しく聞かせていただきたいと思います。

*1:臨床研究法・・・「臨床研究法の解説文」 一般社団法人日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/about/clinical-research/
*2:特定臨床研究・・・「臨床研究法の解説文」 一般社団法人日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/about/clinical-research/
*3:「2020年(1月~12月) 年 次 業 績 報 告」 日本CRO協会
https://www.jcroa.or.jp/outline/2020report.pdf

臨床研究とは? ~育薬における臨床研究の重要性~

吉原:冒頭でも申し上げましたとおり、企業治験のCRAの方は、それはCROでも製薬会社にいらっしゃる方でも同様なのですが、臨床研究のイメージがなかなか湧かないと思うので、本日はそちらにフォーカスして聞かせていただきます。

まず臨床研究の目的についてです。治験で言うと世の中に新しい医薬品を届ける、新薬を開発し承認取得というゴールを目指すわけですが、製薬会社が関与する臨床研究はどんな目的に向けて行うものなのでしょうか?

村林:まず治験がグローバル化したことで、承認取得段階では、日本人のデータが少ないという状況があります。これは、申請を行う国ごとの開発タイムラグをなくし、最短で世界同時承認を目指すというブロックバスター(*4)的な医薬品であればあるほど、製薬会社は、できる限り必要最低限の少ないデータで承認戦略を組んでいくためです。その結果、国際共同治験での日本人の症例数が少なくなりがちです。

そうすると、例えば日本人における安全性のデータが不十分といったことになりやすいです。一方、臨床医は、様々な背景を持った様々な状況にある個々の患者さんにあった、より適切な処方をおこなうためにデータを求めるわけです。そういった臨床現場のニーズに対し、製薬会社はPMSや臨床研究などの上市後の様々な取り組みでエビデンスを積み増していく必要があり、またそういったニーズに応えていくことで、適正使用ならびに製品価値最大化を目指していくこととなります。

そこから、臨床研究でどういったエビデンスを足していくべきか、足していけるかを検討することが、メディカルアフェアーズ部門の重要なテーマとなっています。

補足すると、こういった日本人データの不足は治験の計画段階から常にメディカルアフェアーズ部門と臨床開発部門で話し合われている戦略の一つであり、こういったことからも上市後の臨床研究の重要性はCRAの皆さんに知っていただきたいですね。

吉原:そうやって、臨床研究のテーマが立ち上がってくるのですね。

さて、例えば日本人のデータが少ないから臨床研究でデータを取るといった目的に対して、臨床研究なりメディカルアフェアーズ活動はどのようなゴールを設定されるのでしょうか?

治験でいうと承認取得というのがわかりやすいゴールだと思うのですが。

村林:わかりやすく言うと、「論文化」というのが、ゴールとなります。データを取り、エビデンスを確立しても、それだけでは臨床現場への情報提供としては使えないためです。

他には、学会発表などでエビデンスを共有するといった方法もあるのですが、パブリケーションされた論文というのは、この世界では非常に価値を持ちますので、まずは論文化を目指すこととなります。

そのため、そのインパクトファクターの高さなども考慮しながら、どういった雑誌に載せていくのかなども、メディカルアフェアーズ部門で検討しています。

吉原:雑誌の選定という意味では、やはり最終的に治療ガイドラインに影響を与えるような、権威のある雑誌に掲載できるかということを考えているのでしょうか。具体的には、治療ガイドラインに標準選択薬として採用される、抗がん剤であればセカンドラインからファーストラインに上げることなどを、製薬会社は目指しているのかと思いますが。

村林:例えば、安全性に関し、競合製品が後から安全性のデータを出してくると、自社製品でもそういった安全性のデータも積み増していくことが最低限必要となってくるでしょうし、また競合となる他社の開発品の承認状況に応じて、不足しているであろうエビデンスを早めに出していくことで、より早く深く自社製品について医師に認知してもらうことに繋がっていくこととなります。

特に抗がん剤は、治験のデータだけでは臨床医の方々は使いづらいということが如実に出ています。ですので、上市後に様々なエビデンスを追加することによって臨床医や患者さんにより安心して使っていただくための情報提供を行うことはもちろん、競合製品との差別化ポイントを明確にし、それらの情報を臨床の現場に浸透させていくようにします。そういった活動を行うことで、臨床現場での信頼性を上げ、治療ガイドラインに影響を与えようとしますね。

吉原:そうすると、臨床研究というのは単に不足するデータを取るということではなくて、どういうエビデンスを創出したら患者さんや医師にとって使いやすい医薬品となるのか、どうしたら治療ガイドラインで取り上げられるような医薬品になるのかといったことを意識して取り組むものということになりますね。

村林:おっしゃるとおりです。先ほど、“わかりやすく言うと「論文化」がゴールとなる”と申し上げましたが、究極的には治療ガイドラインや、治療の一般的なマニュアル等に落とし込まれていくことが本質的なゴールとなります。

吉原:御社が関わった臨床研究のなかで、治療ガイドラインの改訂にまで至ったものはあるのです?

村林:はい、光栄なことにそういう実績もあります。

治療ガイドラインの改訂というのは並大抵のことではないので、本当に良い機会に恵まれたと思いますし、その臨床研究の意義が認知された結果だと思っています。

そして、当社としましても、我々の支援が最も実を結んだ事例の一つだと思います。

吉原:御社の仕事が治療ガイドラインに影響を与え、臨床の現場でその治療ガイドラインに沿って処方されるわけですよね。それは、すなわちより多くの患者さんに届くということですから、医薬品ビジネスに関わることの意義をとても実感できたのではないでしょうか。

一方、企業治験主体のCROですと、PhaseⅡを担当して、その後のPhaseⅢや承認申請はどうなったかもわからないといったことがほとんどかと思うので、御社で臨床研究に関わることのやりがいは大きそうですね。

村林:私も企業治験主体のCROにいましたが、個々の試験を完遂することと、開発品の最終的なゴールに到達することは別のものになっていて、患者さんや医療への貢献が見えにくいというのは少なからず感じていました。

さらに言えば、私は、製薬会社にもいたわけですけれど、製薬会社にいてもその開発品をずっと担当し続けるかどうかはわからない。そういう意味では、1つの試験の本質的なゴール、すなわち1つの試験を行うことで、そのデータが臨床の現場にどう影響を与えていくかを、より身近に見ることができるという点で、我々の取り組みはCRAの方にとって、やりがいを感じていただけるのかなと思っています。

 

*4:ブロックバスター:一般的には年間の売り上げが1000億円を超える大型製品を言う

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