転職の進め方とコツ

STEP2.本当にやりたいことを見つける

転職の進め方とコツ2
目次

1.本当にやりたいことの見つけ方

前の記事で、転職では中長期的なキャリアを考えることが大切だと説明しました。

自分自身の中長期的なキャリアを考えるためには、たとえ仮説だとしても、まずは「本当にやりたいこと」を見つける必要があります。

しかし、筆者のもとには、

「やりたいことが見つからないんです」
「やりたいこと?見つけ方がわかりません」

と相談する求職者が少なくありません。

なぜこのような悩みを抱えてしまうのでしょうか。

それは、自分の「できること(can)」と「やるべきこと(must)」で転職先を考えてしまうからです。

筆者は、よく求職者から下記のような相談を受けます。

「今はCRAだけど、CRAの経験を活かしつつも、これからはもっと自分の能力を発揮できる仕事がしたい」

「いま現在56歳。60歳を迎えた定年退職後、再雇用で年収が大幅に下がる。しかし、子どもがこれから大学生になりお金がかかるので、65歳まで今の年収を維持できる仕事がしたい」

さて、このような悩みは解決するでしょうか。

例に挙げた二人は「~したい」と、あたかも自分のwill(意思)を語っているように聞こえますが、前者はcan(できること)、後者はmust(そうでなければならないこと)から生まれる悩みだということがおわかりでしょうか。

実際に、前者の相談者に求人を案内すると、どうなるでしょうか。

下記は、実際に筆者が求職者から口にされたリアクションです。

「スタートアップやインハウスのCRAは、内勤職でワークライフバランスは良さそうだけど、それだったらCRAの方がやりがいがあるので、あまり興味がわかないです…」

「データマネジメントは、年収が下がりそうなのでイヤです…」

「医薬品のプロモーション資材を作成するメディカルライティングは、やることは頭では理解できるけれど、なんとなく興味も実感も持てません…」

「製薬業界向けの経営コンサルタントは、やりがいはありそうだけれど、難しそうです…」

このように、それぞれの業務内容や待遇への不満点を挙げては、「しっくりこない」と口にするのです。

「しっくりこない」と口にするのはなぜでしょうか。

それは、どこかで自分の「やりたいこと(will)」や、ありたい姿がぼんやりとあり、そことのギャップを感じているからでしょう。


仮に、より多くの人材紹介会社に登録し、より多くの求人情報をあたってみてもリアクションは結局同じです。

結果、そのような方は自分がやりたいことがますますわからなくなります。

最悪の場合、たくさんの転職サイトや人材紹介会社に登録したにもかかわらず、よい求人情報に出会えず、「やりたいことが見つからない/見つける方法がわからない」という悪循環に陥ってしまうこともあります。そのような方は、青い鳥症候群のように「今よりもっといい仕事と巡り合えるはず」「もっと好条件の職場があるはず」と現状に満足せず、ありもしない理想の職場を求めて転職を繰り返してしまいます。


この状況を、大手国内メーカーへの転職で例えてみましょう。

ソニーとパナソニックを相対比較しても、「どちらに転職するのが正解か?」の結論は出ないのです。

なぜなら、ソニーとパナソニックはどちらもよい会社であり、それぞれ異なる魅力があり、それぞれの企業の個性は、ある人にとってはプラス、ある人にとってはマイナスに感じられるからです。

筆者が抱く勝手な印象ですが、ソニーは斬新でデザイン性の高いプロダクトを追求する一方、パナソニックは質実剛健で機能性・耐久性のあるプロダクトを追求する印象です。

したがって、斬新なものが好きな方であれば、筆者はソニーをより強くお薦めするということになります。

ここで言いたいのは、自身のwillをまず先に見いだし、そのwillにより共鳴するものが多い職種/会社はどれか? という視点で評価することが大切だということです。

自身のwillが明確でない限り、就職先としてのソニーとパナソニックの優先順位はまずつけられないでしょう。

2.Will(やりたいこと)にどう向き合うべきか?

以上から、「本当にやりたいこと=will」を見出す作業を先にすべきだということがご理解いただけたでしょうか。

この点を理解していただけたとして、次に重要なのはそのwillとの向き合い方になります。

多くの方は、自分のwillとして下記のような点を挙げます。

「プロジェクトリーダーになりたい」
「長く安定して働き続けることができる会社に行きたい」
「将来、経営者になりたい」

しかし、考えてみてほしいのです。

人に何かを提供し、その結果対価を得るのがビジネスであるならば、ビジネスでのキャリアはまずあなたが貢献したい顧客に向けたものであるべきです。

つまり、自分自身がどうなりたいかよりも、

「誰に、どうハッピーになってほしいか? 誰にどうハッピーになってもらえたら、充実感や満足感を得られそうか?」

という観点から考えることが重要です。

ちょっと考えてみてください。

あなたが顧客だとして、まず気になるのはその商品が良い商品であるのかやサービスの質ではないでしょうか?

仮に患者さんならば、よりよい治療薬が届けられるかどうかではないでしょうか?

「この治験を担当しているCRAのワークライフバランスがよくなるか?」
「この治験を担当しているCRAが、65歳まで収入を維持できるか?」

そんなことを考える患者さんはまずいないはずです。

そして、そのような観点で自身のwillに向き合わないと、自身の地位や収入、ワークライフバランス、安定性を優先してしまい、自身のやりたいことが曇っていき、青い鳥探しが始まり、袋小路に迷い込んでしまうわけです。

さて、「誰に、どうハッピーになってほしいか?」が見えてくれば、あとはそれを実現するためのアクションを決めるだけです。

例えば、うつ病で苦しむ人を、日常生活に戻れるよう支援したいと思ったとしましょう。

その場合は、精神科医や心療内科医、心理カウンセラー、抗うつ剤の研究者や医薬品開発者、うつの発症機序の基礎研究者、うつ病治療の医療機器開発研究者、ソーシャルワーカーなど、willを実現できる具体的な職業イメージが思い浮かぶようになります。

ちょっと脱線しますが、こういう思考は採用選考にもプラスに働きます。

「臨床開発部門の部門責任者を目指しており、上が詰まっていない御社あればプロモーションしやすいと考えて応募させていただきました」

という候補者と、

「うつ病で苦しむ人を助けたいため、精神科領域の薬剤開発・マーケティングに強い御社を志望しました」

という候補者がいたら、どちらの方がより採用される確率が高いでしょうか。

後者の方が採用される場合が多いはずです。

なぜなら、企業は顧客に価値提供してくれる人が欲しいからです。

3 will/can/mustの視点からやりたいことを見出す

ただし、徹底的に自分に向き合えば簡単にwillが見えてくるというものでもありません。

そこで、思考の補助線となるフレームワークを採用することをおすすめします。

もっとも使いやすくて整理しやすいのは“will/can/must”のフレームワークを使い、自身の「やりたいこと、できること、やるべきこと」をざっと洗い出す手法です。

このフレームワークをもとに記入していくと、実は「これはcanだった」「これはmustだった」と、自分のスキルや感情をきれいに洗い出すことができます。

will-can-mustを考える

他にもライフラインチャートなど、さまざまなツールやフレームワークが存在します。

このあたりは、特にCDA等のキャリアカウンセラー資格や、国家資格のキャリアコンサルティング技能士の資格を持っている転職エージェントに相談するとよいでしょう。

このように思考を整理していくと、見えてきた自分のwillが、今の自分では実現できないことに気づくことがあります。

多くの場合、willの実現には時間がかかるものです。

時間がかかることがわかったときでも、「自分には無理」と諦めるのではなく、5~10年、ときには20年かけてどうwillを実現するかを考えればよいのです。

その中長期的な見通しのなかで今何をすべきか、どんな知識と経験を得るべきかを考えれば、目の前でどんな転職をすべきかが自ずと見えてくるはずです。

また、転職だけがキャリア開発の手段ではないので、MBAで学ぶ、プログラミングを習得する、資格を取ることなどに1〜2年時間をかけ、その後転職するなど柔軟にキャリアプランを立てていくと、少しは悩みも晴れていくでしょう。

ちなみに自身のwillがあまりに特殊すぎて、世の中にある職種や組織(会社、行政等)での実現があまりに無理な場合、それは起業すべきということになります。

それを、既存の枠組みでやろうとすると、また「青い鳥探し」に戻ってしまうのでご注意を。

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