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2024-07-22 07:11

伝えたいことを正確に伝えるには 5 ~相手の承諾を得るための「提案」 1/3~

伝えたいことを正確に伝えるには 5 ~相手の承諾を得るための「提案」 1/3~
「報告」「会議」「提案」など、コミュニケーションを取る場ごとにポイントは違います。今回はそのなかの「提案」におけるコミュニケーションのポイントをわかりやすく説明します。

Ⅰ.「提案」とは

 「提案」は、社会人にとってとても重要なコミュニケーションの一つであることは疑いのない処でしょう。現在抱えている問題や課題、或いはまだ顕在化されていないニーズに至るまで、1つの「提案」からその解決に結び付けることが出来たら、それは大きな進展に繋がり、提案者の評価も上昇することでしょう。良い「提案」をするためには、現状をよく把握し、有効なリソースの棚卸・選択が的確で、具体的な行動に結び付くものであると言えますので、現状把握の能力を示すことになります。また、その問題や課題を解決したいという気持ちの表れであることから、モチベーションの高さを示すことにもつながります。そして解決に至ったときには、それまで以上の信頼関係の構築が出来ることでしょう。まさに社会人にとって必須コミュニケーションであると言えます。

 「提案」の組み立て方を学んでいくにあたり、ここでは「提案」を二つに分けて考えて参ります。一つは、上司、同僚、チーム内、プロジェクトメンバー間、社内等の場合、つまり目標や価値観が共有できている状態の場合です。もう一つは、顧客、ステークホルダー、他社・他部署等、目標や価値観の共有が不十分な状態の場合です。そもそも「提案」は相手が今抱えている問題や課題をいかに解決すべきか、という観点で行われるものですから、同じ事象が起こっていたとしても、それを問題、課題と捉えるか否かは、相手の目標や価値観が分かって初めて理解できる事なのです。不十分な理解のまま自分の目標や価値観から「提案」しても、それは単なるおせっかいということにもなりかねません。今回は1つ目の場合、目標や価値観が共有できている状態の場合について考えて参ります。

 

Ⅱ.「提案」にとって重要なこととは

 では「提案」にとって重要なこととは何でしょう。それはその「提案」が相手に「承諾」されるか否かという点でしょう。「却下」されてしまえば何も始まりません。では「提案」を受けた人はどのようにして「承諾」「却下」のジャッジを行うのでしょうか。

「提案」は問題や課題を解決するために、「始める」「やめる」「変える」といった何かしらの「変化」を求めることがほとんどです。現状維持を提案することは稀であると思います。「提案」を受けた側にとって、その「変化」にどのような反応があるのかを考えると、それは変化に対するポジティブな感情「期待」と、ネガティブな反応の「不安」の2種類に分かれるはずです。

その点から考えますと、「承諾」される「提案」は「期待」が大きく「不安」が小さいもので、「却下」される「提案」は「期待」が小さかったり「不安」が大きかったりあるいはその両方だったりするのではないでしょうか。つまり「承諾」される提案をするには、相手の「提案」に対する「期待」を増幅させ「不安」を減少させることが重要になります。

ではどのようにして「期待」を増幅させ「不安」を減少させる「提案」を組み立てるのか。実は「期待」と「不安」は予測が可能なのです。

 

 まずこれからちょっとした「提案」をご覧いただきます。これは同じ部署の部下から上司への「提案」となります。上司の立場となってその「提案」を受けるつもりで読んでみてください。そしてその「提案」から、どのような「期待」とどのような「不安」が芽生えてくるかに注意してみてください。

 

「実は年度末に部署の決起大会を兼ねた食事会を行いたいと思います。

というのも今年度のこの部署は、成績が振るわず目標達成はあきらめざるを得ない状況にあります。部署内の雰囲気もあきらめムードが漂い活気がなく、次年度を迎えるにあたり、この状況を引きずったままでは良いスタートが切れないのではという懸念があります。そこでマインドセットを目的とした来期に向けての決起大会を開き、新たな気持ちで新年度に迎えたいと思いますが如何でしょうか。なお、場所、費用、内容等は現在未定ですが、○○さん(上司)の承認を頂いたら進めていくつもりでおります。」

 

 如何でしょうか。どのような「期待」と「不安」が芽生えてきたでしょうか。実はこの例文を使ってセミナーや企業研修でも同じ内容のことを伺ってきました。それらで出てきた答えは以下のようなものです。

 

「期待」

・良くない雰囲気が一掃でき、来年度の成果に繋がるかもしれない。

・部署内のコミュニケーション促進になるかもしれない。

・部署の事の本気で考えてくれる部下がいる。・・・

 

「不安」

・何をやるのか内容が見えない

・いくら経費が掛かるのか。

・全員参加できるのか。・・・

 

 いままでセミナーや研修で何十回もこの内容で伺ってきましたが、不思議なことに八割方がこれらの答えに落ち着きます。違う内容の例文を使ってもやはり同じ傾向になります。相手の立場でこの「提案」をどのように聴くのか。その点を考えればこのように結果が一致する傾向にあります。このことから、相手の目標、価値観、立場といったものが分かれば、「提案」に対する「期待」と「不安」は高い確率で予測することが可能であるということが言えるのではないでしょうか。

 先程の「提案」をもう一度見て頂くと、「期待」に繋がる内容も「不安」に繋がる内容も、具体的には何も表現されていません。そこで予測できた「期待」と「不安」を使って、「期待」を増幅させ、「不安」を減少させるための組み立て方で作成してみましょう。

 

Ⅲ.「提案」を組み立てる

 ではそれらの点に注意しながら、「提案」を組み立ててみましょう。

 

 まず組み立て前の準備として、先程予測した「期待」と「不安」を使って、「期待」を増幅させるフレーズと、「不安」を減少させるフレーズを考えておきます。例えば、「部署内のコミュニケーション促進になるかもしれない」という期待に対して、「普段の会議ではあまり見られなかった、メンバー同士で本音の意見交換を意識的に行える」とか、「何をやるのか内容が見えない」の不安に対して、「やるからには出来るだけ効果のあるものにしたいと思います。ですから内容につきましては、課員からの有志と出来ましたら○○さん(上司)にも加わっていただき、会の企画を徹底的に詰めてから行いたいと思っています。」等のフレーズです。

 実際の組み立てでは、最初に「提案」の内容を伝えます。これから提案する具体的内容です。例文では「年度末に部署の決起大会を兼ねた食事会を行いたい」の部分です。

 次になぜそのような「提案」をしたいのか、「提案」の理由を伝えます。先程の例文では「今年度のこの部署は、成績が振るわず目標達成はあきらめざるを得ない状況にあります。部署内の雰囲気もあきらめムードが漂い活気がなく、次年度を迎えるにあたり、この状況を引きずったままでは良いスタートが切れないのではという懸念があります。そこでマインドセットを目的とした来季に向けての決起大会を開き、新たな気持ちで新年度に迎えたいと思いますが如何でしょうか。」の部分になります。

 そしてここで「期待」を増幅させるフレーズを話します。話し方としては、例として「更に~(期待を増幅させるフレーズ)~ということも期待できます」のような言い方で、相手の期待を明確化することを目的として伝えます。

 ここで一旦クローズし相手の意思を確認します。そこで相手が難色を示したときには、その理由を聞きます。この時に「不安」の予測が役立つのです。相手の懸念に対しては、まずその懸念を認めたうえで、「不安」を減少させるフレーズを質問の形で伝えます。例として「そうですね。確かにそう思います。その場合は、~(不安を減少させるフレーズ)~という対処をするのはいかがでしょうか?」のような質問を意識した言い方にして、「私たちはそこまで考えています。そして決定権はあなたにありますのでご決断ください」という意思を見せます。そして「不安」を減少させた後にもう一度クローズです。また新たな「不安」が出たら、同じように対応します。

 

Ⅳ.記入例と解説

 

では実際に上記の方法に従って「提案」を組み立てていきましょう。先程の例文を使っていきます。

 

「実は年度末に部署の決起大会を兼ねた食事会を行いたいと思います。

というのも今年度のこの部署は、成績が振るわず目標達成はあきらめざるを得ない状況にあります。部署内の雰囲気もあきらめムードが漂い活気がなく、次年度を迎えるにあたり、この状況を引きずったままでは良いスタートが切れないのではという懸念があります。そこでマインドセットを目的とした来季に向けての決起大会を開き、新たな気持ちで新年度に迎えたいと思います。」・・・まずここまでは、提案内容とその提案の理由を述べていますのでこのままで良いと思います。

 

「更にこの会を行うことで、普段の会議ではあまり見られなかった、メンバー同士で本音の意見交換を意識的に行えることが出来ます。これにより、より深いコミュニケーションが図れるという期待もあります。また実はこのような来期に対する懸念を抱いているのは私だけではなく、AさんやB君も同じように何かしなければと話していました。それら課員の自発的な声からの活動は、やりがいや自主性にもつながる効果も期待できるのではと思います。」・・・ここでは、相手の「期待」を言語化し明確にすることで、より「期待」の増幅を狙います。今回は「部署内のコミュニケーション促進になるかもしれない」と「部署の事の本気で考えてくれる部下がいる」のふたつの「期待」を増幅させました。ここまでで一旦クロ―ズです。「如何でしょうか?」

 

すると上司から。「確かに良いことだと思うけど、具体的に何をやるのか見えないから何とも言えないね、その点はどうなの?」のような懸念が聞かれたとします。そこで「確かにそうですね。私たちもやるからには出来るだけ効果のあるものにしたいと思います。ですから内容につきましても、課員からの有志と出来ましたら○○さん(上司)にも加わっていただき、会の企画を徹底的に詰めてから行いたいと思っていますが、如何でしょうか?」・・・ここで「不安」に対する準備が出来ていることと、最終決定権は相手にあることを明確にする。そして再度クローズです。「如何でしょうか」。その後細部の情報を伝えます。「なお、場所、費用等は現在未定ですが、○○さん(上司)の承認を頂いたら進めていくつもりでおります。」

 

Ⅴ. まとめ

 如何でしたでしょうか。「提案」は、相手の「期待」と「不安」を予測し、「期待」を増幅させ、「不安」を減少させることで、承諾の確立を上げることが可能になります。つまり相手の立場にたって「提案」を聞くということが大切であり、これは「提案」だけでなく

様々なコミュニケーションにおいて大切なのは、相手に対する理解と配慮です。

 

 しかしこの「提案」の組み立て方は、顧客やステークホルダーには使えない方法なのです。なぜなら、顧客やステークホルダーは上司や同僚と違い、目標や価値観の共有が不十分であるため「期待」と「不安」の予測が困難だからです。ではそのような場合はどうするのか。次回はそのような場合について考えて参りましょう。

 

筆者は当サイトにおきまして、コーチとしてのキャリア相談、及びセミナーを開催いたしております。コーチとしてはコミュニケーション全般の他、リーダーシップ、チームビルディング、製薬業界におけるセリングスキル等、製薬業界での経験を活かせた内容のものも行っております。セミナーはコミュニケーションに関する内容となっておりますので、詳しくは、それぞれキャリアサポートのページからご検索ください。

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■執筆者 大野裕之

 

大学卒業後、製薬会社に入社。当初医薬情報担当者として勤務し、主に大学病院、地域基幹病院等を担当、その後営業マネジャー職を経て本社営業推進に移動。社内コーチングシステム立ち上げプロジェクトに加わりコーチングと出会う。プロジェクト完了後、初代社内コーチの一員として活動を始める。その際営業スキル研修等の研修コンテンツの作成に携わり、後に全国の支店で研修を実施し、その普及に努める。退職後コーチングの資格を取りプロコーチとして独立。現在はフリーランスでリーダーシップコーチ、エグゼクティブコーチ、研修講師、セミナー講師として活動。

 

※資格等

・(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ

・ACTP修了(株式会社コーチエィ認定)

・T3プロフェッショナルインストラクター修了(ウィルソン・ラーニングワールドワイド株式会社認定)

・プロジェクトプラニング修了((株)PMコンセプツ認定)

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